ビリビリとしびれている腕。
生まれたての子鹿のように、プルプル震えている足。
頭の三角巾のせいで丸見えのおでこには、うっすらと汗が滲んできている。
—こんな…こんなしんどいなんて、聞いてへーーーん!!
12月初旬。
冬が始まっているはずなのに、この日はほんわかと暖かい日だった。
(よし!がんばろっ!)
この日は、娘が通っている幼稚園で、お餅つき大会が開催される。
そのお手伝いをするために、私は幼稚園にやってきた。
お手伝いには、40名ほどのママさんやパパさんがいる。
40名。
多く感じるが、この大会を運営するにはギリギリの人数。
数少ない有志の保護者が集結し、準備にも時間をかけ、とうとうこの日を迎えたのだ。
「ヒトミさんに、お願いがあって…」
本番直前に、とあるママさんからお願いされた任務。
それは、お餅つきの『返し手』
どうやら、返し手をやりたいママさんがいないらしい。
かという私は…
—えっ!?楽しそうやん!!がんばろー!!
即答で「OK」
ほぼ、ノリと勢いだ。
もちろん、返し手なんてやったことない。
だが、頭上に「ルンルン」という吹き出しが浮かんでいるかのように、私は完全にお祭り気分。
しかし、いつまでもお祭り気分のままではいられなかったのだ…
「それでは!お餅つき大会を、始めたいと思いまーーーす!!」
『イエーーーイ!!!』
保護者リーダーの掛け声と、歓声や拍手とともに、お餅つき大会は開幕した。
園庭には、餅米を蒸すための釜戸が設置されている。
そこに乗せられているのは、餅米が入った”せいろ”。
すでに蒸し始めているせいろからは、モクモクと白い蒸気が立っている。
そして、熱々のせいろが運ばれてくるのと共に、あまーい香りもどんどん近寄ってくる。
—わぁー♡いい匂い♡早くお餅食べたーい!
そんな呑気なことを考えている間に、蒸したての餅米が、臼へと豪快にダイブする。
白いモクモクの蒸気で隠されていた餅米が、徐々に正体を現していく。
お餅をつく担当はパパさんたち。
パパさん3人は臼を囲い、その周りをゆっくりクルクル回る。
そして、回りながら、丁寧に餅米を杵でつぶしていく。
お餅をつく前の大事な作業。
そしてとうとう、本格的に杵でお餅をつく段階に入った。
「ドスッ!ドスッ!ドスッ!」
パパさん3人が代わりばんこにお餅をついていく。
近くで見ると、なかなかの迫力だ。
そして、改めて聞くと、とてつもなく鈍い音。
絵本などで表現されている「ぺったん、ぺったん」とはほど遠い。
ボケーっと聞いていたら…
「じゃぁそろそろ水も加えていきましょうか!!」
1人のパパさんが声をかけてくれた。
「あっ!は、ハイ!」
—わぁ、とうとう私の番がきたよー。
あれだけ余裕をかましていたのに、いざやるとなると緊張が走る。
—熱くないかな?
—お餅落とさへんかな?
—失敗せんかな?
この期に及んで、不安が湧き出てきた。
でも、もうやるしかない!
そして私は、慣れない手つきで返し手をやり始めた。
だが…
—やっぱり、結構熱い。それにこれ、持ち上がる?
ちょっとずつ、私の中で、嫌な予感がしてきたのだ。
そして、返し手をし続けていると、私にどんどん異変が起こってきたのだ。
(ドンッ!ペチン!…ドンッ!ペチン!)
—てっ、手が!!しんどすぎ!!
—お餅って、こんなに重いん!?
—足、もう限界ーー!!
お餅を思いっきり持ち上げ、臼に叩きつける!
そして、水に浸した手で、お餅をビンタ!
それを何度も繰り返す。
想像以上の重労働!
—えっ!?こんな、こんなにしんどかったん!?やるんじゃなかった…
どんどん湧き出る後悔。
早くも白旗をあげたい気分。
—誰か…かっ、変わって…
そう思っても、お手伝いの人数が少なく、交代なんてできない。
私がやりぬくしかないのだ。
でも、容赦なく体力は削られていく。
—私の体力、最後までもつ!?
まさに、絶対絶命のピンチ!
(うわぁーー!!もうムリーー!!)
私が限界を迎えようとしていたその時!!
「かっかーーー!!」
ん?この声は…娘?
そして、他にも声が聞こえた。
「娘ちゃんのママー!!カッコイイーー!!」
「がんばれーー!!」
私の耳に届いたのは、可愛らしい黄色い声。
そう。娘やそのお友達が、私に声援を送ってくれていたのだ。
必死にお餅だけを見ていた視線を上げると、こども達が臼の周りを囲っている。
ひまわりのようにキラキラ輝いているこども達の笑顔。
声援と笑顔で、私のやる気スイッチは、瞬時にオフからオンへと切り替わったのだ。
—負けてたまるかーー!!かっこいいママを見せたるーーー!!
こども達の応援で、私は完全に火がついた。
あれだけ悲鳴を上げていた体と気持ち。
だけど不思議と、パワーがみなぎってくる。
「おいしくなーれ!!おいしくなーれ!!」
こども達が唱え始めた、お餅が美味しくなる呪文。
その呪文は、私にも効果があったみたいだ。
呪文のリズムに合わせて、私はお餅を叩きつけ、ビンタし続けた。
そしてとうとう、美味しそうなお餅が完成したのだ。
白く、ツヤツヤでほっかほか。
持ち上げると、手が飲み込まれそうなくらい柔らかい。
「やったーー!!」
「すごーーい!!」
(パチパチパチパチパチ!!)
お餅が出来上がった後も、歓声や拍手を送ってくれるこども達。
(やった…できたー!)
最後までやりきり、私はとてつもない達成感を感じていた。
そして、こども達と同じような、満面の笑みを浮かべていたのだった。
これも全部「こども達の呪文」のおかげ。