30cmの詐欺師
「ん?んん?んんん!?」
あんなに大きかったはずなのに。
悲しいことに、どんどん小さくなっていく。
4月中旬。
春の陽気で、心が軽やかになるような昼下がり。
だが、私は別の意味で心が躍っていた。
「ふっふ♡こんな大きいのもらえてラッキー♡」
私の目の前にあるもの。
それは、お裾分けにいただいた、30cmもある立派なタケノコだ。
——タケノコご飯、お吸い物にお浸し、天ぷらもできるやん!今日はタケノコパーティーやー♡
頭の中では、今夜の食卓にずらりと並ぶタケノコ料理が、すでに完成されていた。
ただひとつ、大きな問題があった。
「ゆで方、わからん…」
そう。私はタケノコの下処理をしたことがなかったのだ。
『タケノコ 下処理 簡単』
すぐさまスマホで検索する。
「おぉー、なるほど!これならできそう!」
分かりやすく解説してくれている動画を見つけ、ホッと一安心。
さっそく見よう見真似で下処理を始めた。
「グサッ、グサッ!」
根本の硬い部分を切り落とし、穂先の斜めに包丁を入れる。
慣れない手つきだが、動画通り、なんとか茹でる段階にまでたどり着いた。
家で一番大きなお鍋で湯を沸かし、米ぬかと赤唐辛子とともに、タケノコを丸ごと入れる。
白い湯気が上がり、ぐつぐつと煮立っていく。
鍋からは、アクが吹きこぼれそうだ。
お湯の香りに紛れて、ほんのりと甘いタケノコの香りが漂いはじめる。
そして、茹でること1時間が経った頃。
「うん!いい感じ!」
すーっと竹串が通ったタケノコ。
無事に茹で上がったようだ。
ふと豪華な食卓が目に浮かび、気持ちが高鳴る。
そしてついに、下処理の最終段階へ。
それは、周りの固い皮をめくっていく作業だ。
——ゆっくり、ゆっくり。
丁寧に1枚ずつ剥がしていく。
だか、その時だった。
——あれ?
違和感が胸をかすめる。
——皮って…どこまで剥くん?
剥いても剥いても、思い描いていたタケノコの身が、一向に見えてこない。
その代わり、めくればめくるほど、タケノコはみるみる細くなっていくのだった。
胸がざわつく。
——私…どこかで何かを間違えた?
どんどん高まる不安。
だけど、もう後戻りなんてできない。
進んでいくしかない。
手に汗を握りながら作業を続け、とうとう最後の皮を剥き終えた。
だが……。
「…こっ、これだけ?」
手の中に残ったのは、わずか15cmの可愛らしいタケノコだった。
さっきまで堂々と佇んでいた、あの大物はいったいどこへ?
皮という重厚な「鎧」を着込んで、自分を大きく見せていたのか…
まんまと騙された…。
頭の中に描いていた豪華なメニューは、静かに消えていく。
そして、夕食の時間。
「はい、食べていいよ。」
『かっかー、これなぁに?』
テーブルの真ん中にあるお皿を指差しながら、息子が尋ねる。
「これ?……タケノコの天ぷら。」
我が家の華やかになるはずだった「たけのこパーティー」は、たった一皿の「タケノコの天ぷら」で幕を閉じたのであった。
2人の子をもつ元看護師。カフェで読書をするのが大好き。あたたかく、やすらぎのある暮らしを目指し中。感性を磨き、自分の経験を元に、心に寄り添える発信をしていきたいです。チャキチャキな大阪弁でのお笑い要素も満載♪
実績:第4回IWriteグランプリ優勝
