「ハァッ、ハァッ…どこ?…どこにおるん!?」
息を切らし、膝に手を当てながら、私は辺りを見渡す。
でも、探しているものは見つからない。
そして、頭をよぎるのは、今朝流れていたニュース。
—ちがう……そんな…そんなわけない…
そして、未だ見つからないものを求めて、私はまた駆け出した。
ほんの15分ほど前—
5月末。
新緑が「もうすぐ夏だよ」と教えてくれているような、さわやかなある日の午後。
この日も普段と変わらず、小学1年生の息子は学校へ行っていた。
「静かでええわー」
息子が学校へ行っている間、私は束の間のひとり時間を堪能していた。
でも、その至福の時間は、いつもあっという間に終わってしまう。
「ハァー。もうこんな時間。そろそろ帰ってくるやん…」
私はため息をつきながら、息子の帰りを待っていた。
すると…
(ピーンポーン!)
—あぁ、とうとう帰ってきた。
息子が帰ってきたと思い、私は玄関に向かい、重たいドアを開ける。
(ガチャ!)
「おかえりー……ん?」
そこにいたのは息子ではなく、見守りパトロール隊のTさんだった。
—え?なんで?
思いもよらぬ訪問者にあっけにとられるも、Tさんの言葉で、私の心臓はナイフが刺さるような衝撃を受けた。
「息子くん、帰ってるか!?帰っているところ、見なかったんだけど!!」
—えっ……
慌てた様子のTさん。
Tさんの血相と、息子がまだ帰ってきていない事実で、雪崩のような恐怖が襲ってきた。
「…まっ、まだです…」
一瞬固まってしまった私は、なんとか言葉を絞り出す。
そして、今朝流れていた恐ろしいニュースが、またたく間に脳内で再生された。
「深夜1時頃、〇〇市△△ に“刃物のようなものを持った男”を目撃したという情報が寄せられました。
その人物は未だ、見つかっておりません。」
—まさか……まさか……!!
「タッ!!バタン!!」
私はTさんのことなんて気にも留めず、息子が通る通学路へ、勢いよく走り出していた。
「いない…もう、どこ行ったん!?」
きっと私は、ただならぬ雰囲気を醸し出していただろう。
じんわりと滲み出る汗と、荒れた息遣いが、必死に走ってきたことを物語る。
—黄色い帽子に…えっと…今日何色の服着てたっけ?…あっ、緑のトレーナーや!
気が動転しつつも、今朝の息子の姿を思い出しながら辺りをキョロキョロ。
でも、どこにも息子の姿はない。
そしてまたもや、今朝のニュースを思い出し、不安がさらに加速する。
それとともに、周りの景色が、だんだんモノクロに変わっていくような気がした。
—あの子に何かあったらどうしよう…
目頭が少しずつ熱くなる。
冷静さを失っている私は、息子が無事であることを、ただただ願うことしかできなかった。
—お願い!!どうか…なんにも起きていませんように…
その時、ポケットに入っていたスマホがブルブル震えだした。
震える手で、なんとかスマホを取り出し画面を見ると…
「!!!!!?」
「あっ!!かっかーー!!(^^)」
「………」
電話を受け、私が向かった場所。
それは、家と学校の中間地点にあるスーパー。
そこのサービスカウンターにいるのは、黄色い帽子に緑のトレーナーを着た男の子。
…間違いなく、私の息子だ。
いつもと変わらず、ニコニコしている息子。
店員さん数名に囲まれて、もらったと思われるぬりえを、楽しそうにぬっている。
スマホにきた連絡。
それは、このスーパーの店員さんからだったのだ。
「息子さん、今朝の不審者のニュースを思い出して怖くなっちゃったみたいで。避難所になってるこのスーパーに逃げてきたみたいなんです」
—ハァーーー…
店員さんからの説明を受け、一気に肩の力が抜けた。
気力を全部吸い取られた気分だ。
一方、息子はというと…
「ここに逃げてきてえらかったねー!!」
「本当に1年生?しっかりしてるねー!!」
「ほんとほんと!!怖くなったらいつでも来てくれていいからね!!」
店員さんたちからの称賛の嵐を受け、どこか誇らしげな表情をしている。
—あんだけ心配して、あんだけ必死になって探したのに…なんやこれは!!!
私はそう思いつつも、VIP待遇を受けている息子を見て「でも…よかった」とホッとする。
「怖くなったら、こども110番のところに行ったらいいって、先生言っててん!」
店員さんたちに褒めちぎられたからか、いつもより軽やかに歩きながら息子が言う。
「そっかそっか。えらかったね!」
息子と今日の出来事を話しているうちに、自宅に到着。
息子は「ただいまー!!」と玄関のドアを勢いよく開けて、家へ入っていった。
いつもと変わらない『ただいま』
ただいまって、こんなに嬉しい言葉やったんやなー。
慌ただしい毎日にのまれて、すっかり忘れちゃっていた。
これからは、ため息なんかつかずに、息子の帰りを待っててあげたい。
そう思えて仕方ない。
そして息子は、放り投げられたランドセルのそばで、好きな電車のおもちゃで遊び始めている。
そんな息子の後ろ姿に、私はそっとささやいた。
「おかえり(^^)」