ゴーフルの行き先

生活

 
——あぁー迷うー!
 
 
考えれば考えるほど決められない。
 
 
行ったり来たりを繰り返しながら、私は真剣にショーケースを見つめる。
 
 
「喜んでくれたらいいな」と淡い期待を抱きつつ。
 
 
でも、そんな想いが、いとも簡単に裏切られることになるなんて…
 
 
 
 
 
 
「それでは、宜しくお願いします!!」
 
 
そうハキハキと挨拶をしているのは2名の作業員さん。
 
 
使い込まれている作業服に身を包み、深々と頭を下げられる。
 
 
 
この日は、自宅の外構工事が行われる日だった。
 
そのため、作業員さんたちが、我が家に出向いてくれたのだ。
 
挨拶を交わしたら、2人はそそくさと作業を開始した。
 
 
今日の工事は、庭の周りにフェンスを設置してもらう予定だ。
 
 
 
——2人だけの作業は大変そうやなー。
 
 
私はそんなことを考えていた。
 
 
それと共に、私にある想いが芽生え始めてきたのだ。
 
 
——仕事とはいえ、せっかく来てもらっているし。
何かお礼をしたいなぁ。
 
 
それは、作業員さんにお礼の品を贈ること。
 
 
 
でも、家にはお礼に渡せるような、大した品があるわけでもなく。
 
 
「15時くらいに終わるらしいし、あとで買いに行こう!」
 
 
スタッフさんたちの喜ぶ顔を想像しながら、何がいいかなと思いふけっていた。
 
 
 
 
 
「ちょっとスーパーに行ってくるわ!」
 
 
在宅勤務の夫にそれだけ伝えて、私が向かったのは近所のスーパー。
 
 
工事が終わるまで、まだ2時間近くある。
 
全然間に合う!と余裕をかましながら、スーパーのお土産コーナーを物色し始めた。
 
 
そこには、自分が欲しくなるようなお菓子が盛り沢山だった。
 
 
 
春らしくラッピングされた可愛らしいチョコレート。
 
間違いなく美味しいであろう、王道のプレーンとチョコのクッキー。
 
甘い物が欲しくなる、塩気がたまらないおかき。
 
 
 
——あーーどれもいいなー。美味しそう。
 
 
自分が食べるのかというくらい、迷いに迷ってしまう。
 
 
 
——おしゃれそうなやつが良いし、どれにしよう…
 
 
しばらくお土産コーナーをウロウロ。
 
 
どのくらい時間が経っただろう。
 
 
ふとスマホの時計を確認すると、20分くらい時間が経ってしまっていた。
 
 
 
——いやいや!お土産選ぶだけで、こんなにも時間かかってるん!?(笑)
 
 
自分で自分にツッコミながら、少しだけ探す速度をあげた。
 
 
 
そしてふと、ある商品が目に入った。
 
 
 
それは、薄く焼いたサクサク食感な丸型ウエハースにクリームを挟んだ代物。
 
 
 
そう、ゴーフルだった。
 
 
 
手のひらサイズの可愛らしいゴーフルが、落ち着いた赤や緑でデザインされた缶で着飾られている。
 
 
お土産ド定番のゴーフル。
 
 
 
でも、その装いに、なんとなくときめいてしまった。
 
 
 
——これ良さそう!サイズも丁度いいし、値段もお手頃!この中で一番オシャレかも!
 
 
 
念には念をと思い、お土産全てを見直してみた。
 
 
でも、この時にはすでに、ゴーフル以外の選択肢はなくなっていた。
 
 
 
——よし!これに決めた!
 
 
2人分のゴーフルをいそいそと購入。
 
 
 
——喜んでくれたらいいなー!
 
 
私はそう気持ちを弾ませながら、自宅まで自転車を走らせた。
 
 
 
 
 
しかし…
 
 
 
自宅に到着すると、なんだか様子が違っていたのだ。
 
 
 
——ん?なんでこんなに静かなん?
 
 
 
工事をしているはずの庭へそっと向かう。
 
 
 
 
すると…
 
 
 
 
「えーーっ!?」
 
 
 
いるはずの作業員さんも、作業道具もきれいサッパリ消えていたのだ。
 
代わりに、工事依頼をしていた新しいフェンスが、きれいに立ち並んでいた。
 
 
私はバタバタと、時計を確認する。
 
 
——13時42分…もう…終わったん?
 
 
聞いていた終了時刻より、明らかに早い。
 
 
手に持っている、ゴーフルが入ったエコバッグをそっと見つめる。
 
 
 
——いやいや!そんなはずないやろー!
 
 
現実を受け止めきれていない私は、在宅勤務中の夫に確認するため、ドタバタと書斎へ向かう。
 
 
 
そして、夫から告げられたのは…
 
 
 
 
「あっ、なんかめっちゃ早く終わったみたいで。ほんまついさっき帰ったで!」
 
 
 
 
 
(チーーーーーン)
 
 
 
 
夫の発言で、私は現実を受け入れざるをえなくなった。
 
 
 
 
「そうなん!?せっかくお土産渡そうと思って、買ってきたのにー」
 
 
 
「えっ!?そうやったん!?それはそれは…笑」
 
 
 
 
全くフォローになっていない言葉を、半笑いで言われた私。
 
 
 
 
好きな人に告白をしようとしたのに、私のことなんて好きじゃないと、周りからバラされた気分。
 
 
 
「ありがとう」の気持ちがこもった、行き場を失ったゴーフルたち。
 
 
 
 
そして、ゴーフルがどうなったかというと…
 
 
 
 
 
言えなかった感謝の言葉と一緒に、私の胃袋に飲み込まれていったのであった。

2人の子をもつ元看護師。カフェで読書をするのが大好き。あたたかく、やすらぎのある暮らしを目指し中。感性を磨き、自分の経験を元に、心に寄り添える発信をしていきたいです。チャキチャキな大阪弁でのお笑い要素も満載♪ 実績:第4回IWriteグランプリ優勝

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