「なんでウサギなん?」
ピョンピョン!ピョンピョン!
ステージにいるのは、とび跳ねながら歌っている息子。
でも私は、別のことが気になって仕方なかった。
約2ヶ月前。
「僕、ウサギにしてん!」
息子の発言を聞いた瞬間で、私の頭は「?」で埋め尽くされた。
「ウサギ!?なんで??」
今日は2ヶ月後に開催される、幼稚園の発表会で演じる役が決まる日だった。
幼稚園から帰ってきて早々、息子は決まった役を教えてくれた。
でも、その役がまさかのウサギだったのだ。
——ライオンとかトラとか。ゾウもいたと思うけど。
普段から強そうな動物が好きだった息子。
劇にはそういった動物が沢山出るはずだった。
その中で、息子がウサギを選んだことは、私にとって意外すぎたのだ。
「んー?なんとなく!」
ウサギを選んだ理由を息子に問うも、腑に落ちない返事。
好きな役をやれば良い!
もちろん私はそう思っている。
でも、親の第六感なのか、なんとなく気になる。
——えっー。なんでなんやろ?
そして、そのモヤモヤは消え失せることなく、発表会本番を迎えるのだった。
発表会当日。
スポットライトに照らされた幼稚園のステージには、たくさんの動物たちが勢揃いしている。
その中に紛れているのは、ウサギと化している息子。
かわいらしいピンク色。
ピンッと背伸びしているながーい耳。
愛くるしいウサギ姿の息子。
流れる音楽に合わせて、ピョンピョン跳ね回っている。
(かわいい♡意外と似合ってるやん!)
そう思いながらビデオカメラを回す一方、私の心にはまだモヤモヤが残っていた。
息子がウサギにした理由がこの日までずっと分からずにいたからだ。
そして、劇は無事に、盛大な拍手と共に幕を閉じた。
「妹ちゃん、劇見れた!?」
劇が終わった帰り道。
金色に輝くイチョウの絨毯を家族で歩きながら、息子は妹に話かけていた。
喧嘩もよくするけど、息子はなにかと妹をよく気にかけてくれる。
妹が劇を楽しんでくれたかどうか、息子なりに気にしているのだろう。
そんな中、私はゆっくり足を進めながら、今日の劇を思い出していた。
健気に一生懸命に踊っていた息子。
楽しそうに歌を歌っていた息子。
幕が降りる時、満面の笑顔で私に手を振ってくれた息子。
どれも、私にとってかけがえのないシーンばかりだった。
劇の余韻に浸っていた私は、息子がウサギを選んだ理由なんて、全く気にも留めなくなっていた。
でも次の瞬間。
秋の涼やかな風が、息子の真実の想いを運んできてくれたのだ。
「妹ちゃんウサギ好きやろ!?ウサギどうやった!?」
(!!!!!)
そう。息子は、妹が喜ぶであろう役を選んでいたのだ。
そんな理由だとは思いもしなかった。
金木犀の香りがふわりと漂う。
前を歩く息子は、妹ともう次の会話を始めていた。
でも、私だけは立ち止まりそうになる。
知らないうちに、この子はこんなにも優しくなっていたんだな。
胸の奥がじんわりと温かくなった。
なんでウサギなん?