次は、30分後

生活

 
「そうそう!!私も!!!!」
  
私はテレビに向かって、心の中で叫んだ。
洗濯物を干す手を止めて、テレビに釘付けだった。

テレビに出演していた俳優さんの、
「いつも命懸けだった!」という言葉に、
私は「わかる!わかる!」と頷きを止められなかった。

そう、私は命懸けだったのだ。


今から25年前。
地元の田舎に住んでいた私には、いつも命懸けのことがあった。
それは、バスを絶対に逃さないこと。

田舎での唯一の公共交通機関は、バス。
30分に1本、1時間に1本しかない。
家から1時間以上の職場に通勤していた私は、
このバスを絶対に逃せない、といつも必死だった。

大雨だろうが強風だろうが、ダッシュで走って行った。
そうじゃないと、遅刻してしまうから。

これを逃すわけにはいかないっ!!

と走って転んで血まみれになったこともある。
だけど、そんなのかまってられない。
これ以外に、行く手段がないのだ。
まさに命懸け。私はいつも必死だった。


そんな私が、関東に引っ越して目にしたのは、
電車の路線の多さ、時間の多さ。
あっ、逃してしまった…と思っても、数分後にはまた次が来る。

全く命懸けじゃない!
地元では、あり得ない!!

東京生活が長い夫は、地方の電車のことを、
「電車が30分に一本なんて、あり得ん!」と言っていたけれど、

『あり得ん!』は、こっちのセリフだ!
東京の方がおかしいっ!!

と私は思っていた。
そして、

「地方ではそれが普通だし、みんなそれで生活してるんよ!」

と言い返していた。

私の田舎。次は30分後、1時間後が当たり前。命懸けの日常だった。
それが、私のふつうだった。

そんな私が関東で生活して、もう7年。
電車の多さも当たり前になっていた。

そんな中、テレビから聞こえてきた俳優さんの一言。

「僕、命懸けだったんです!」

彼も田舎出身で、電車が30分に1本しか来なかったそうだ。

そうそう!!私も!!!!

久しぶりの感覚に、私は頷きを止められなかったのだ。
俳優さんの言葉が、頭の中にこだまする。


───命懸け!!───


そうか私、あの時、命懸けだったんだ!!

当時の私は、それがふつうだと思って生きてきた。
それ以外の生き方なんて、考えたこともなかった。
だけど、関東に引っ越し、ここでの生活が当たり前になった今、思う。
あの頃の私は、命懸けで一日一日を必死に生きてきたんだ。
気合入れて生きてきたんだなって。
今ならはっきり言える。あれは、かけがえのない日々だった。

なんか私って、すごいじゃん!!

ちょっとだけ、自分を誇らしく思えた。


いつの間にか、テレビは別の番組に切り替わっていた。
私は、まだ残っている洗濯物に気づき、ベランダに戻った。

洗濯物を干しながら、秋晴れの空を見上げると、いつもより明るく見えた。
胸の中まで、すっと晴れていくようだった。

事務職として働きながら、エッセイを学ぶ。 日常を振り返った時に気づく、 小さな違和感や感情の揺れをすくい取り、 言葉にすることを大切にしている。

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