午後二時半のフラストレーション

2026.07.15
人間関係

「お先に失礼しまーす。」

午後三時。

五時間勤務のパートさんたちがパラパラと帰り始める。

おつかれさまでーす…

視線をPCからそらさずに返事をする。

もう帰るの?

ちなみに私は二時半が定時なんだけど…

なんだかイライラする。

あの人、今日おしゃべりばっかりしてたよね。

私はトイレも我慢してここまでやってるんだけど。

キーボードをたたく音が激しくなっていく。
 
 
 
「Fさん、これもお願いできますか?」

え。

Iさん。

アナタ、さっきも私に別のことを依頼してきたよね?

「あ、でも定時過ぎてますね、次で大丈夫です。」

引き返そうとするIさんにかぶせるように、笑顔でこう答える。

「大丈夫です!それやってから帰ります!」

申し訳なさそうな顔で立っている彼から、書類を奪い取る。

「いいんですか…?すみません、助かります。」

「はーい、だいじょぶでーす。」
 
 
…あと2時間あれば終わるかな。
 
 
みんな忙しいんだから仕方ない。

今日やらなかったら明日の私が困るから。

プリプリしながらPCに向かう。
 
 
 
なんでパートのみんなは定時でサッと帰るんだろう。

社員もパートも関係ないよね。

誰かが困ってたら120パーセントでやるべきじゃない?
 
 
 
勉強だって。

家事だって。

育児だって。

全力でやらないと終わらないし、まわらない。

頑張ったからこそ認められるんじゃないの?
 
 
 
そんな風に、定時なんてあってないようなものとして働いていたある日。

チームリーダーは無慈悲にこう告げた。
 
 
「来月はAさんが異動、再来月はBさんが転職、秋にはCさんが産休に入ります。」
 
 
 
えー?

うそでしょ!?

三人ともなくてはならない主要メンバーなんですけど!?
 
 
 
そして、このチームのパートである私とSさんはさらに忙しくなった。

明らかにうちのチームだけ残業が多い。

人がいないから仕方ない。
 
 
私の定時は14時半。

だけど帰宅は毎日17時を過ぎる。

出勤のたびに17時に帰るのが当たり前になっていった。
 
 
 
 
「Fさん、私もう限界かも。」
 
 
Sさんが不安を口にしたのはこの頃だ。
 
 
「やってもやっても終わらないし…」
 
 
「そうだよね…」
 
 
気持ちはわかる。

…でも、しょうがなくない?
 
 
心の中で、本音をつぶやく。
 
 
でも、Sさんまでいなくなったら終わりだ。
 
 
「私も手伝うからさ、とりあえず乗り切ろう?」
 
 
「わかりました。」
 
 
…とりあえず納得してくれた?
 
 
そう思ったらSさんがこう言った。
 
「…私、Fさんがいるからどうにか頑張れているんです。」
 
 
え?

そうなの?
 
 
そういわれると、うれしい。

一瞬そう思った。
 
 
…が…

あれ…?
 
 
 
──それって、私のせいで無理してるってこと?
 
 
彼女にそんなつもりはないだろう。

でもその言葉が頭から離れない。
 
 
さっきまでのうれしさがスーッと冷めていった。
 
 
私のせいで誰かが無理をしているかもしれない。

誰かに負担を強いているのかもしれない。

もしかしたらみんながやめていったのは私のせいなのかな…

頭の中はそんな不安でいっぱいになった。
 
 
 
忙しい日々をなんとか乗り越え迎えた年末年始。

私は一人考えていた。
 
 
 
私だって、本当は帰りたい。

なんでこんなに頑張ってるんだろう?

頑張らないと認められない?価値がない?
 
 
 
いやいや。

社員さんは、

『あとはやるので帰ってくださいね』

って、声をかけてくれてたじゃない。
 
 
 
…勝手にムキになっていたのは私なんじゃないの??
 
 
 
 
『頑張らなくちゃ認められない』

そう思っていたのは私の思い込みだったんだ。
 
 
 
そう考えていたら、社員の人に申し訳なくなってきた。
 
 
 
よし。

今年こそはきちんと定時に帰る日を増やそう!
 
 
 
 
年が明けたある日、Sさんからスマホにメッセージが届いた。
 
 
「社員さんが増えたら楽になるって聞いてたのに、全然楽にならないですよね。

 私本当にそろそろ限界かなって。

 上の人に相談しようかと思います。」
 
 
 
 
一呼吸してSさんに返信をする。
 
 
「相談してもいいと思うよ。」
 
 
その後に私はこう続けた。
 
 
「あのね、私は最近、定時に帰るって決めたんだ。
 
 もう無理はしない。」
 
 
 
翌朝、Sさんからメッセージが届いた。
 
 
「Fさん。目から鱗でした。残れって強制されてるわけでもない。

 私が決めて定時に帰ればいいだけですよね。
 
 勝手に背負ってしんどくなってました!ありがとう!」
 
 
 
自分で決めて自分で動く。

自分の不満を人のせいにしていると、いつまでたっても被害者のままだ。
 
 
 
 
今、私たちは定時に帰っている。

勝手に背負った荷物をよいしょとおろすと、心が軽くなった。

50代。事務職。夫・娘・息子の四人暮らし。日常のささいな気づきやクスッと笑えるような出来事で幸せを感じていただければ。趣味、スピ活、推し活、食べることなど。

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