逃げ場なき新幹線

生活

(やばい…止まらへん…)

悲しいことにどんどん出てくる。

止めるなんて無理!

(もう!どうしたらいいんやーー!!)

私に危機が訪れたのは、こども達が夏休みに入ってすぐのことだった。

「わぁーー!!楽しみーー!!」

「早く行きたーい!!」

トランクを持つ人が行き交う駅のホームでは、5歳の息子と2歳の娘が胸を弾ませている。

今私達は、大阪へ帰省するためにここにいるのだ。

帰省手段は新幹線。

2時間30分ほどで到着する。

こども達はこの日を、とても楽しみにしていた。

ホームで新幹線が通過するたびに、キャッキャキャッキャと黄色い声をあげている。

そんなこども達とは対照的に、私はあることで不安に包まれていた…。

新幹線に乗車して10分ほど経った頃。

(…ムズムズムズ)

——あっ、やばい…また出てきそう。

私の顔の中心に異変が出始めたのだ。

——あぁぁぁ、苦しい…

思うように、体に入って来ない空気。

それは、ネバネバの物体が、鼻の出入口を塞いでいたからだ。

乱雑に抜き取ったティッシュを、両手にめいいっぱい広げ、急いで鼻を覆う。

そして…

(ブーーーーッ!)

真っ白だったティッシュが、あっという間にクリーム色になる。

私が心配していたこと。

それは鼻水だった。

私は数日前に風邪を引いてしまい、それを期に鼻水が止まらなくなってしまったのだ。

しかもこの風邪は、こどもたちから順番に回ってきたもの。

最初は息子、次に娘…

そしてついに、私のところにやってきた。

招待した覚えは全くないのに…

——こどもたちの風邪が治ったのはいいけど、この鼻水はキツイわー。

よりによって、帰省までに治らないなんて。

なかなかしぶとい。

えらい根性のあるウィルスが来たものだ…

——どうしよう。まだ2時間以上も新幹線に乗ってないとあかん。

なぜか新幹線に乗ってからの方が、鼻水の量が増えた気がする。

大阪に着くまでこの状態!?

それはさすがに辛い。

それともう1つ、私が心配していたこと。

それは、周りの乗客の反応だった。

コロナ渦は落ち着いてきてはいるが、世間はまだまだ風邪症状に対して敏感になっている。

同じ車両に乗っている赤の他人が、鼻水ばかり出していたら、間違いなく不快だろう。

私だって警戒する。

——トイレへ逃げ込む!?いや、でも…

幼いこどもを連れて、何回もトイレに逃げ込むなんてできない。

「またトイレーーー!?」と、不満が出るのは目に見えている。

逃げ場のない新幹線。

私にできることは、静かに鼻をかむことと、この鼻水にただ耐えること。

それしかなかった。

そして、到着まであと1時間という頃。

私に、新たなピンチが訪れた。

——あー。もっと持ってくればよかった…

鼻をかむため、私はポケットティッシュを5パックほど持ってきていた。

だが、それももう底が尽きそうなのだ。

鼻水だけなら充分足りる。

ただ私は、こども2人の存在を忘れていた。

こどもとのお出かけに、ティッシュは欠かせないアイテム。

お菓子を食べたあとの口周りを拭いたり、こぼしたお菓子の掃除に使ったり。

そのため案の定、ティッシュが足りなくなってしまった。

——こんな時に限って…

——ティッシュ箱ごと持ってくればよかった…

後悔の渦が私を襲ってくる。

だが後悔していても、容赦なく鼻水は襲ってくる…

なんとか到着まで、ティッシュを節約しながらやり抜くしかない!

ティッシュ全体がベタベタになるまで、1枚のティッシュを何度も使い回す。

こんなにティッシュを大事に扱ったことあったっけ…?

そしてついに。

(チャンチャンチャチャチャン♬)

——あーー。やっとやー!

待ちに待った、目的地に到着する車内メロディー。

このメロディーをどれだけ待ち望んでいたことか。

降りるまであと約10分。

でも、私は一刻も早く外に出たくて、ササッと荷物をまとめだした。

「えっ!?もう行くん!?」

その様子を見ていた息子は、呆気に取られていた。

そして、新幹線のスピードが徐々に緩やかになってくる。

——もうすぐ…もうすぐ!!

そしてついに!

(プシューーー)

降下口の扉がゆっくり開いていく。

やっと…やっと新幹線から解放されたのだ。

降車したらすぐに、迎えに来てくれた母の姿が目に入った。

——あー、やっと会えたー。

久々の母とのご対面。

いつものように、笑顔で母の元まで駆け寄りたい。

会えて本当に嬉しい。

そんな私が、母に最初にかけた言葉は…

「お母さん!ティッシュちょうだい!!」

違う意味で、母に会えたことを喜んでいた私であった。

2人の子をもつ元看護師。カフェで読書をするのが大好き。あたたかく、やすらぎのある暮らしを目指し中。感性を磨き、自分の経験を元に、心に寄り添える発信をしていきたいです。チャキチャキな大阪弁でのお笑い要素も満載♪ 実績:第4回IWriteグランプリ優勝

関連記事