今日のパンダはどれにする?

出産・育児

「いやだぁぁぁ!!!ママぁぁぁっ!!!」


今日も、この世の終わりかのように泣き叫ぶ息子。


…あぁ、引き返して連れて帰りたい…

もういいよ、家に帰ろって…

駆け寄って抱きしめてあげたい…


…でも、ここで振り向いてはダメだ。
息子を信じて、心を鬼にする。


重い足を一歩一歩進めて、なんとか車までたどり着いた…。


「…はぁぁ……」


運転席に乗りこんで、ようやく息をついた。

スマホを取り出して、夫にLINEを送る。


『今日もギャン泣きだった…』

そして、またため息がでた…。

息子を幼稚園に送る朝は毎回、こんな葛藤をくり返していた。



とにかく甘えん坊でママっ子な息子。

私の姿が見えないとすぐ「ママぁぁー!」と泣き出していた。

私と離れることは、息子にとってありえないことだ。


…でも、


そんな息子も、来年には年少さんだ。

週5日も幼稚園に通うことになる…。

「…こんなんで幼稚園、いけるのかな?」

来年の息子を想像すると、泣いてる姿しか浮かばない。


…泣くよな
…絶対に泣くけど…


少しづつでも、幼稚園に慣らした方がいいんじゃないか…

そんな思いから、夫婦で話し合い

息子を、年少さんになる前から通える週2回のプレ保育に、1年間通わせると決めたのだ。

1年あれば、なんとかなるんじゃないか…


…そう思っていたけど。


実際は、壮絶な日々の始まりだった…。




「いやだぁ!!ママーっ!」

息子は、幼稚園生活に慣れるどころか…
1年間ずっと泣き続けた…。


行くたびにリセット。
毎回、振り出しだった…。


ある日、幼稚園から突然電話がかかってきたこともあった…

「泣きすぎて吐いてしまったので、お迎えに来てください」

ぇ…吐くほど、泣いた…?

そんなに…?


「なんとかなる」と思ってた自分が、崩れそうだった…。


これって息子にとって、意味があるんだろうか…

ただただ、息子を傷つけているだけなんじゃないか…


何度もそう思った…。


毎回、泣きすぎて

真っ赤に腫れてる息子の目…。


「ママ…」と呼ぶ声は
かすれてしまっている…。


そんな息子の姿に、私は胸が締めつけられる思いだった…。




そして、迎えた4月…。

いよいよ、週5日の幼稚園生活が始まる。


「…やっぱり、泣いちゃうだろうな…」


週2日でさえ、あんなに泣いてた息子だ…。


そんな心配は尽きない…。

それでも、私とずっと
一緒にいるわけにはいかない…。

お友達だって、たくさんつくってほしい…

…どうか、頑張ってほしい。

そんな思いの中、週5日の幼稚園生活が始まった。




そして案の定、息子は泣き続けた…


月曜日も、火曜日も…
水曜日も…


毎日…毎日…


「ママーぁぁ!!」
と泣き叫び続けた。


そうして私も息子も…
金曜日を終えたころには、もうヘトヘトだった…。


「…1週間、長かった…」
私は、心の底から声が出た。


…それでも、1週間本当によく頑張った。


泣いても、泣いても…息子は、
休まず1週間、幼稚園に行ったんだ…。


…よしっ

私は頑張った息子を抱き上げて、

「今日はご褒美に、好きなもの買いに行こうよ!」

そう誘って、息子が大好きなイオンに連れて行った。



いろんなお店が並んでいるイオンの中を、
息子は楽しそうに、キョロキョロしながら歩いていた。


そのうちに、息子がピタッと足を止めた。


「…何か見つけた?」


そう聞く私に息子は頷いて、小走りで店に入っていった。


キャラクターグッズがたくさん置いてある、可愛い雑貨屋さんだ。


お店に入ると、息子が何かを手に、キラキラした目で見つめている。


そっと、後ろからのぞきこむと


息子の手には、可愛いパンダのキーホルダー。


可愛いものが大好きな息子らしいなぁ

なんだか、微笑ましかった。



「…それが、ほしいの?」

「…うん、これかわいい。こっちもかわいい」


息子は、ポーズが違うパンダで悩んでるようだった。

ご褒美はパンダのキーホルダーで決まりかな?


「どっちにする?」と聞こうとした時…

息子が小さな声で言った。


「…これ、幼稚園のカバンにつけていけるの…?」



………ぇ…



息子の言葉に、心臓が跳ねた。


「…うん、つけていけるね」

「うーん、そしたらこっちのパンダちゃんがいいっ!」



……ぇ?


聞き間違いじゃないよね!?



…あんなに泣いていたのに。


毎日毎日「いやだ!」って泣き叫んでいたのに…


息子は…幼稚園に行こうとしてくれている!!!


「いいじゃん!買おう!!」

私は嬉しくてたまらなくて…

気づけば、そのお店にあったパンダのキーホルダーを全種類買っていた。



それから息子は、毎朝パンダのキーホルダーを選ぶのが日課になった。


「きょうは、このパンダちゃーん!!」

早くつけてと、自分から幼稚園のカバンを持ってくる。


「パンダちゃんと一緒にいってきまーす!」

なんて言って、家を出る日も増えた。

まだ、泣いてしまう日だってある

けど…

息子はちゃんと、自分の足で踏み出している。


「今日のパンダはどれにする?」

私がそう聞くと

「これー!!」

息子の笑顔が返ってくる。


小さな小さなパンダの相棒をぶらさげて、今日も息子は登園する。

30代 | 夫、息子2人、保護猫と暮らす。 友人と10年カフェを経営、妊娠を機に現場を離れる。在宅での仕事に魅力を感じ、ライターの道へ。映画鑑賞、読書、レザークラフト、ガラス彫刻など…引きこもり系趣味をもった、インドア主婦。

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