全裸とタバコに判決をくだす

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…ドタドタドタッ!ガラッ
 

突然の事に、私は唖然となった。

ものすごい音と一緒に、リビングに飛び込んできたのは…
 
 
 
全裸の夫。
 
 
…な、なに?
 
 
お風呂に入っていたはずの夫が、
今、すごい形相で目の前に立っている。
 
 
…頭にはシャンプーの泡を乗せたまま
 
 
ドタドタドタッ
 
 
目が合ったかと思えば…
 
 
今度はキッチンを駆け抜け、あっという間に2階へ駆け上がって行った。
 
 
…呆気にとられた私は、リビングにポツンと1人…
 
 
 
 
しばらくして戻ってきた全裸夫は、明らかに安堵の顔をしていた。
 
 
「…何事?」

「え?いや、忘れ物!」
 
 
そう言って、何事もなかったようにお風呂場へ戻って行った。
 
 
 
 
いやいや…!
 
 
忘れ物なんていつも私に頼むでしょ!?
 
 
シャンプーの途中で、しかも裸で出てくるなんて…普通じゃない!
 
 
私は、全裸夫の足取りをたどるようにキッチンを見わたした…
 
 
 
そして
 
「あっ!!」と気づいた。
 
 
 
…あれだっ
 
キッチンにあった…
 
私のじゃない巾着袋っ!
 
 
さっき見たはずの巾着袋は、今キッチンから消えている。
 
 
 
「…あれだっ」 
 
思わず声が出た。
 
 
だから、わざわざキッチンを通ったのか…
 
 
あの巾着袋をとるために!
 
お風呂場からなら、直で2階へ上がれるのに!
 
 
 
その全裸夫の行動が、ますますあやしさを膨らませた。
 
 
 
これは、証拠をにぎらないと!
 
…きっと、あの中だ
 
 
 
全裸夫めっ!
あばいてやるっ!!
 
 
 
 
私は夫に気づかれないように、そっと2階の寝室へ向かった。
 
 
 
寝室に入ると、 
 
 
そこには、夫がいつも使っているリュックがあった。
 
 
…絶対この中だっ!
 
 
リュックをのぞくと案の定、あの巾着袋が入っていた。
 
 
 
その中から出てきたのは…
 
 
 
 
新品の電子タバコ。
 
 
 
 
「…タバコ…」
 
 
 
手にした途端、腹の底がモヤッとして…
 
私は思わず、タバコを握りつぶしかけていた。
 
 
 
 
 
 
私はタバコが大大大嫌いっ!!
 
 
それを知って、タバコをやめた夫だったが…
 
 
1度タバコがバレて、私は夫にブチ切れたことがあった。
 
着信無視、LINE無視を数日。
私は、容赦なかった。
 
 
 
夫にとっては、トラウマ級の前科になっているはずだ。
 
 
 
 
 
…あれから10年。
 
 
私も大人になった。 
弁明を許そう…
 
 
このタバコを握りつぶすか決めるのは、その後だ!
 
 
 
 
私は巾着袋を手に、リビングに戻った。
 
  
…さぁ、今回はどう落とし前つけてもらおうか…
 
 
巾着袋を握りしめる手にも力が入る。
 
 
 
 
すると、「ガラガラ…」と、洗面所の戸が開く音が聞こえた。
 
 
 
来たな…
 
 
私はスッと立ち上がり、リビングのドアに近づいた。
 
 
 
入ってきた瞬間の夫にすかさず、
 
「これは何?」
 
と聞いてやるためだ。
 
 
 
どんな顔するだろう…
 
 
 
 
そう思っていると、
 
ガチャッ
 
とリビングのドアが開いた。 
 
 
 
きた!!!
  
 
 
開いたドアから、今度はちゃんと服を着た夫が目の前に現れた。
 
 
 
今だ!!
 
 
私は、
 
ビシィッッ
 
と夫の目の前に巾着袋をつきつけた。
 
 
さぁ、ここで準備してたセリフだ!
 
「これは何?」
 
 
 
 
………が、しかし。
 
 
 
それを言うより先に、 
 
夫がのけぞった。
 
 
 
 
ーーうわぁぁぁぁっ!!
…という悲鳴が聞こえそうなぐらい、のけぞりかえった。
 
 
 
…まてまてっ!
私はまだ何も言ってない!!
 
 
 
顔中の穴という穴から酸素を吸いこんだような夫の顔…
 
 
 
「なんでそれを持っているんだぁ!」
とでも言いたそうに、開かれたままの夫の目。
 
 
 
予想以上に大げさなリアクションに、私は声が出なかった…

 
 
…いやいやっ!
 
 
しっかり問い詰めないとっ
 
 
 
「これはなんでしょーかっ?」
 
 
 
 
 
…ヤバい。
 
思っていた以上に優しい言い方になってしまった…。
 
 
 
 
 
 
それから、まさかの2時間…
 
 
夫の必死な弁明が続いた。
 
「上司が2つあるから1ついるか?って言われて…」
 
「箱の説明を読んでて…そんで置きっぱにしちゃって…それであせって…」
 
「タバコ開けてない!タバコ吸ってない!」
 
 
 
本当に夫は必死だった…。
 
 
 
 
 
それなのに、私は…
 
もうずっと、 
 
 
 
 
ずーっと、笑いをこらえていた。
  
 
 
 
…だって!
 
どうしても、頭から離れない!
 
 
 
シャンプー頭の全裸夫の走る姿と
 
巾着袋を見た時の、のけぞった夫の顔がっ!
 
 
…もう、夫の弁明が全然耳に入っていない!
 
 
 
ほんと、すごい格好だったな…
 
あんなにびっくりしてたし…
 
 
 
そして、ふと思い出す。
 
 
 
…そういえば…
 
床も濡れてなかったんだよな…
 
 
 
夫が駆け抜けた階段には、
水滴が一つも落ちていなかった。
 
 
 
…それって
 
 
体は拭いてから出てきたって事だよな…っ
 
 
 
きっと床を濡らしたら、
私に怒られるって思ったんだろう。
 
 
 
 
あんなに慌ててたのに…
 
体は拭くって…っ
 
 
 
 
そこまで想像したら、また吹き出しそうになる!
 
 
 
もう、無理っ!
  
 
これ以上、笑いをこらえられないっ
 
 
 
 
 
 
…早く判決だ!
 
 
さっさと判決をくだしてしまおう!
 
 
 
 
 
 
「今回は執行猶予、まぁ未遂だったし。でも一生執行猶予だからね!」
 
 
 
「…はい」
 
 

半分笑いながらの私でも、
夫にお灸をすえるには十分だった。
 
 
 
 
 
 
 
その日のうちに新品電子タバコは、某フリマサイトへ出品。
 
 
 
その売上金は、私のスイーツに化けた。
 
 
 
 
あれだけ慌てふためいて、
シャンプー頭で全裸疾走までした夫だ。
 
 
 
あの必死さを思えば、さすがにもうタバコには手を出さないと…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
信じてやろう!

30代 | 夫、息子2人、保護猫と暮らす。 友人と10年カフェを経営、妊娠を機に現場を離れる。在宅での仕事に魅力を感じ、ライターの道へ。映画鑑賞、読書、レザークラフト、ガラス彫刻など…引きこもり系趣味をもった、インドア主婦。

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