厄介者が、イタリアの風を運ぶまで

グルメ

「おじいちゃんがカキくれるってー。」
 
 
──カキ?
 
 
「カキってどっちの?牡蠣?それとも柿?」
 
 
電話を切った娘に聞いても、
 
 
さぁ…
 
 
と気のない返事。
 
 
えー。
 
普通聞くでしょ。
 
 
でも、娘は牡蠣にも柿にも興味がない。
 
 
じゃあ仕方がないか。
 
 
 
牡蠣だったらポン酢をかけて、生でツルっといただきたい。
 
だんだん涼しくなってきたから、お鍋にいれてもいいな。
 
 
 
…でも、ほぼ100パーセント柿だろう。
 
なぜって、牡蠣が送られてきたことなんて一度もないから。
 
 
 
そして、予想通り柿が届いた。
 
 
だよね~
 
 
と思いながら段ボールを開けてみる。
 
 
段ボールの中のお菓子と柿。
 
 
予想外だったのは、柿の数だ。
 
 
ビニール袋にぎゅうぎゅうに詰め込まれた柿たち。
 
 
 
…多くない?
 
 
 
恐る恐るビニール袋から取り出してみる。
 
 
一つ、二つ、三つ…
 
 
数えてみたら20個以上あった。
 
 
四人家族で20個。
 
 
一人当たり5個…
 
 
 
「ねぇ、20個以上ある。どうしよう。」
 
 
何を隠そう、我が家は誰も柿が好きじゃない。
 
 
でも、こんなに送ってくれたのに食べないのは申し訳ない。
 
 
柿、苦手なんです
 
 
って言えればいいんだけど、義理のお父さんにそれも言えない。
 
 
夫から伝えてほしい、と訴えたこともある。
 
 
返ってきたのは、
 
 
「あの人はね、言っても聞いてないから。」
 
 
の一言。
 
 
うーむ。
 
 
この柿、どうしよう。
 
 
 
一瞬ひらめいたのは
 
 
『そうだ、みなさんにおすそ分け!』
 
 
でも。
 
 
一つの疑念が頭をよぎる。
 
 
果物屋さんやスーパーで買ったものなら、プラ容器に入っているはず。
 
 
でもこの柿は、どこかのお洋服屋さんのビニール袋に無造作に詰め込まれている。
 
 
当然、値札もない。
 
 
ということは…
 
 
 
私はうっすら感じていた疑念を口に出す。
 
 
「…おじいちゃん、この柿どこで手に入れたんだろう。」
 
 
誰も答えてくれないので、独り言みたいになった。
 
 
さらにもうひと押し、強めに言ってみる。
 
 
「…もしかしてだけど、どこかの柿の木からもいできたんだろうか。」
 
 
…娘も無言である。
 
 
 
沈黙。
 
 
 
怖いのでこれ以上は深追いするのはやめた。
 
 
よって、おすそ分け案も白紙になった。
 
 
 
でも、好意で送ってくれたのには変わりない。
 
 
「とりあえず、少しは食べてみようね。」
 
 
娘の反応が悪いのでもう一回。
 
 
「ね!」
 
 
「…うん。」
 
 
 
まずはひとつ食べてみよう。
 
 
キッチンに行き、皮をむく。
 
 
触った感じは固すぎず、ぐにゃっともしない。
 
 
いい感じである。
 
 
これならいけるかな?
 
 
パクリ。
 
 
うん、まぁまぁ。
 
 
食べられるけど、別に…
 
 
というのが正直なところだ。
 
 
「ほら、一人一個。」
 
 
娘にすすめる。
 
 
なんだか義務になっている。
 
 
おじいちゃんに申し訳ない。
 
 
でも、やっぱりそんなにたくさんは食べられない。
 
 
 

「大量の柿をもらったんだよね。だけどうち、誰も食べないの。どうしよう。」
 
 
隣の席の同僚に相談してみた。
 
 
いつもネイルがかわいくて、お洋服もアクセサリーも素敵な、おおらかな彼女。
 
 
えー、大変ですね
 
と返ってくるかと思ったが、戻ってきたのは意外な言葉だった。
 
 
 
「いいですね!私、この季節になると自分で柿、買いますよ。」
 
 
 
え!
 
 
柿、買って食べる人いるの!?
 
 
 
驚いた。
 
 
私は生まれてこのかた、柿を買ったことは一度もない。
 
 
柿って実家にあるもの。
 
 
ご年配の方が食べるもの、というイメージが強かった。
 
 
だから、同年代でおしゃれな彼女が『柿』を買っているとは、思ってもみなかったのだ。
 
 
「スライスした柿にカッテージチーズをのせて、
 
 上からオリーブオイルをかけるとおいしいですよ~。」
 
 
にこにこしながら彼女は続けた。
 
 
「秋になるといつも買っちゃう。」
 
 
いつも?
 
 
「桃でも代用できますよ。おいしいよ。」
 
 
…おいしそう。
 
 
彼女が言うと、余計におしゃれで素敵な特別な食べ物に思えた。
 
 
──やってみよう!
 
 
 

家に帰り、冷蔵庫から柿を取り出した。
 
 
昨日までは厄介者だった柿が、今日は輝いて見える。
 
 
よし!
 
作ってみよう!
 
 
皮をむき、四つにカット。
 
 
その後うすくスライスして、高級なお皿に並べてみる。
 
 
その上に、代用のクリームチーズをのせて、
 
 
オリーブオイルをたらーり。
 
仕上げはブラックペッパーをパラり。
 
 
おぉ!
 
 
俄然おしゃれに見える!
 
 
 
「ねぇねぇ、できたよ!」
 
 
娘に声をかける。
 
 
「えーなに、おいしそう!」
 
 
「これ、あの柿だよ。」
 
 
「え、あの柿がこれに?」
 
 
わくわくしながら口に運ぶ。
 
 
 
…おいしい!
 
 
 
思わずつぶやく。
 
 
 
「ねぇおいしい!」
 
 
柿の甘味とクリームチーズのもったり感。
 
 
 
「かあちゃん、おしゃれな味がする!」
 
 
鼻に抜けるオリーブオイルの香り。
 
 
…イタリアを感じる。
 
 
 
私と娘はそのおしゃれな一皿をペロリとたいらげた。
 
 
 
 
同僚のおかげで『柿』の印象が、実家からイタリアへ。
 
 
一気におしゃれなものへ変わった。
 
 
 
今まで柿の魅力に気づいてあげられなくて、ごめん。
 
 
いただいた柿たちも少しずつ食べていこう。
 
 
…ちょっと20個は多いけどね!
 
 
 

50代。事務職。夫・娘・息子の四人暮らし。日常のささいな気づきやクスッと笑えるような出来事で幸せを感じていただければ。趣味、スピ活、推し活、食べることなど。

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