私の足は、大根足だ。
品種で言うなら、丸くて立派な桜島大根。
市販のロングブーツは、ふくらはぎの途中でチャックが限界を迎える。
そこから上に伸びる太ももも、負けてはいない。
歩けば太もも同士がこすれる。
ふくらはぎも、負けじと存在感を主張してくる。
父から受け継いだ、しっかりした足。
母はスレンダーで、すらっとした足。
(なんで、母に似なかったんやろ)
神様は、時々ほんとうに残酷だ。
十代の頃から、私は制服のスカートが大嫌いだった。
正確には、スカートから覗く自分の足が嫌いだった。
周りの女子がスカートを短く履く中、私はそのままの長さで履き続けた。
少しでも隠したかった。
学校の廊下で、人が集まっている前を通るたび、
(足、太っ)
そう言われた気がした。
後ろで笑い声が聞こえるたび、胸の奥がざわつく。
(この足、大っ嫌い)
そう思いながら、私はずっと自分の足を隠していた。
卒業しても、その気持ちは消えなかった。
選ぶ服は、大きめのズボン。
ふくらはぎが目立つ細身のズボンなんてもってのほか。
そんな私が二十五歳の頃、初めてブラジル人の彼と付き合った。
「あなた、かわいい。きれい。」
彼のまっすぐな愛情表現に戸惑った。
でも言われるたび、胸が少しだけ温かくなった。
付き合って初めての夏、海でBBQをすることになった。
彼の目線は、私のズボンを見ている。
「ずぼん、あつい。すかーとは?」
「持ってない」
即答した私に、彼は言った。
「いまから、かいにいく」
そう言うと、近くのイオンへ向かった。
彼が選んだのは、膝上のデニムのスカート。
「あなた、これ、ぜったいにあう」
私はイヤイヤ試着室でスカートをはいた。
(恥ずかしい。ズボンがいい)
そういうつもりで、カーテンを開けた。
すると彼は満足そうにうなずき、
私の意見など聞かず、そのスカートを買ったのだった。
海へは、翌日に行くことに。
翌日、私は買ったデニムのスカートをカバンに忍ばせた。
履く勇気は、まだなかった。
私はズボンをはいて、彼のアパートへ。
ベルを鳴らし、アパートに入る。
「なんで?すかーとは?」
彼が聞いた。
「やっぱり嫌や。足太いもん」
そう言うと、彼は目を丸くした。
「あなたのあしは、きんにくがあってきれい。ぶらじるじんのおんなのこ、ぜったい、うらやましがる」
(うらやましい?)
(この足が?)
彼はズボンの裾を引っ張る。
私は必死で押さえる。
まるで綱引きのようだった。
「あなたのあしは、きれい」
(私の足が綺麗?)
(信じられない!)
その言葉が、耳の奥でこだまする。
結局、私は根負けした。
カバンの中からデニムのスカートを取り出し、着替えた。
太ももに風が通る。
くすぐったい。
歩くたびに、顔が燃え上がりそうになる。
隣では、彼が満足そうに、にやけていた。
海に着くと、彼の友人たちがBBQ を楽しんでいた。
友人の一人が、私のスカート姿に目を丸くする。
「スカートかわいい。にあってる」
一瞬、体が固まった。
「ありがとう。」
私は、声を絞り出すように言った。
隣にいた彼を見ると、
「でしょ?」
と言って私を見た。
彼の顔を見たら、恥ずかしくて、でも嬉しかった。
数週間後 、海のバーで誕生日会があった。
誕生日会の日も私は、少し抵抗しながらスカートをはいていた。
主役のブラジル人女性は、私も見惚れるほど、美人だった。
主役の女性が、私の足を見て言った。
「あなたの足、セクシー」
時間が、止まった気がした。
(え?)
(ずっと隠してきた、この足?)
恥ずかしくて、私は思わずしゃがんだ。
すると彼が、私の腕をつかんで立たせようとする。
「でしょ?」
いつものように彼は言った。
立ち上がった瞬間、私の中にあったコンプレックスの壁に、小さなひびが入った。
(きれいの基準って、細いだけやないんや)
私はそのとき、初めて知った。
私がずっと隠してた足は、見る人が変われば、魅力として映るのかもしれない。
誕生日会を境に、私は少しずつスカートや細身のズボンを履くようになった。
足を出すたびに、彼は言ってくれた。
「あなたのあし、きれい」
何度も言われるうちに、私も少しずつ思えるようになった。
(私の足も悪くないのかも)
その彼とは、後に夫婦になり、娘の父になった。
今は夫婦としては別々の道を選んだけれど、彼の言葉は今も心に残っている。
太いから、足を出してはいけない。
そう思っていた。
でも、足を隠す決まりを作っていたのは、周りではなく私だった。
今年、四十二歳になった私の足には、まるで大根を真空パックしたかのような、ピッチピチのレギンスパンツが張りついている。
私のふくらはぎと太ももの存在を、見事に主張してくれている。
昔だったら絶対選ばなかった服。
だけど今の私は、そのぴったり感すら愛おしい。
今日もピッチピチのレギンスパンツを履き、私は胸を張って、買い物へ出かける。
桜島大根みたいな、この足で。