「もう、今月何回目!?」
私はリビングでひとり叫んだ。
さっきまで手に持っていたスマホが、ない。
テーブルの上。
ソファの隙間。
クッションの下。
ない。
ついさっきまであったのに。
なんで私はこんなにスマホをなくすんだろう。
冷蔵庫の上で見つかったこともある。
本棚の隙間に挟まっていたこともある。
洗濯かごの中から出てきたこともある。
だから今回も、どこかにはある。
でも、その「どこか」が分からないのだ。
その日の夕方。
私はキッチンで夕飯を作っていた。
今日のメニューは肉じゃが。
スマホでレシピを見ながら、じゃがいもの皮をむいていた。
レシピを見ないと、作るのが苦手。
仕方ない。
すると、洗濯機がピーッと鳴った。
「あ、洗濯終わった」
私はスマホを持ったまま洗面所へ向かった。
洗濯物をかごに移す。
それを持って廊下を歩く。
リビングを通る。
ベランダへ出る。
いつもの流れだ。
クロックスを履いて、
洗濯物を干して、
乾いた洗濯物を取り込む。
その間も頭の中は忙しい。
肉じゃがの続きやらなきゃ。
そういえば明日のタオルは足りたっけ。
あ、お風呂も入れなきゃ。
気づけば別のことを考えている。
いつものことだ。
洗濯物を取り込み終わって、キッチンへ戻った。
そして気づく。
スマホがない。
「あれ?」
キッチンを見る。
ない。
リビングを見る。
ない。
洗面所を見る。
ない。
もう一回見る。
やっぱりない。
同じ場所を何度も行ったり来たりする。
探しても探しても、見つからない。
そのうちだんだんイライラしてくる。
「なんで私はいつもこうなんだろう。」
さっきまで持っていたものを、数分後には探している。
結局、自力では見つからず、夫に声をかけた。
「ねぇ、スマホ知らない?」
「また?」
夫は笑いながら自分のスマホを取り出した。
そして私のスマホに電話をかける。
“ピロンッ”
どこかで音が鳴った。
「聞こえた!」
私たちは音を頼りに歩き出す。
リビング。
洗面所。
キッチン。
ピロンッ。
ピロンッ。
音を追いかけながら、二人で部屋をぐるぐる回る。
ひとりで探していた時より、不思議と気持ちは軽かった。
そして音は、玄関で止まった。
夫が靴箱の扉を開ける。
ピロンッ。
「あ!あった!」
そこに私のスマホが入っていた。
「なんで!?」
思わず声が出る。
スマホは、靴箱の中で何事もなかったような顔をしていた。
そして次の瞬間、思い出した。
“あ、クロックスだ”
ベランダへ行く時に履いて、
戻ってきた時に脱いで、
靴箱へしまう。
その流れで私は、スマホまで一緒にしまってしまったらしい。
「うわ!クロックスじゃん!」
私が言うと、夫が吹き出した。
「クロックスのせいにするなよ」
確かにそうだ。
クロックスは何も悪くない。
いつも通り履かれて、
いつも通り戻されただけ。
間違えたのは私だった。
ポンコツすぎて恥ずかしい。
でも、靴箱の前に並んだクロックスを見ていると、
なんだか少し怪しく思えてくる。
だから私は、懲りずに言うのだ。
「えー、クロックスのせいじゃない?(笑)」