地獄のマッサージ

出産・育児

「えぇ!?…む、胸がパンパンっ!!」
 
私は、夜中に激痛と体の異変に目を覚ました。
 
 

…ヤバい!このままじゃ
 

「…破裂するっ!!」
 

自分の身になにが起きているのか、わからない!

私は、急いでナースコールを押した。
 
 
 
 

話は数時間前にさかのぼる。
 

私は初めての壮絶な出産を終え、極上の疲労感と達成感に浸っていた。
 

「…いやぁ壮絶だった」

コロナ禍だったこともあって、夫は立ち会えず、1人で出産。
 

でも、これからが楽しみだった。
 

「産院の食事、最高だったよ!」

周りから散々聞いていた。

毎食、美味しい料理が運ばれてきて、おやつまで出る。
片付けもしなくていい。
 

まるでホテルじゃん!

期待が膨らむ。
 

まぁ実際は…

子鹿かよ!ってぐらいに足腰ガタガタ。

座るのも恐る恐るで、ちょっと大変。
 

でも、いいんだ。

これも出産を頑張った証!
 

体はヘトヘトなのに
「これが産後ハイか!」と妙なテンションのまま、

その日の夜を迎えた。
 

「シャワー、入っていいですよー」

助産師さんの声に、思わずガッツポーズ。
 
 
…よっしゃー!!
 

私の産院では、座ったままシャワーができる設備があった。
 

両側からシャワーが出て、
まるで浴槽に浸かってるみたいになる。
 

「気持ちぃぃ、最高ー!」

食事も本当に美味しくて、聞いてた通りの最高な産後ライフ!
 

面会も出来ない夫に「最高!天国!」とLINEまでしていた。
 
 

そして、私は産後半日で母乳が出た。

それもあって初日から母子同室をすすめられた。
 

「母乳の出、すごいねー!
出なくて悩む人も多いのよー」

助産師さんにそう言われた。
 
 

すごい…のか?

正直、全部がはじめてでわからないことだらけ。
 

「どんどん授乳してあげてね!

赤ちゃんが飲んでくれた分だけ、また作られるから」
そう教わった。
 

なるほど。
 

じゃあ、どんどん飲ませればいいんだ!

すべて順調!
 

私は安心して、息子と一緒に眠りについた。
 
 

…そして、体の異変に気づいて目が覚めたのは、

その数時間後だった…
 
 

「えぇ!?…む、胸がパンパンっ!!」
 

しかも、激痛っ!
 

「何これぇ…痛いっ」
 
 

…ヤバい!このままじゃ
 

「…破裂するっ!!」
 

私は急いでナースコールを押した。
 
 

とにかく痛い!

皮膚の内側から、ギュウギュウに押し広げられている感覚だ。
 

気持ちよさそうに寝ている息子を起こし、必死に飲ませる。
 

「お願いっ、飲んで…!」

生後まもない息子にすがるっ
 
 

しかし…すぐに息子は、
満足そうに口を離し、再び眠りの世界へ。
 

「まって、…寝ないで!お願い!」
 
 


 

…いやぁぁぁ!

息子に見捨てられたぁぁ…
 

胸は相変わらずパンパン。
 

痛みは全然引かない…
 
 

その時、助産師さんが部屋に入ってきた。

私の胸を見て、ひとこと。
 

「あ〜、痛そう!張ってるね」
 

そして、原因をさらっと教えられた。
 
 

「さっきのシャワーで、しっかり温めたでしょ?」
 
 

……え?
 

「温めると、母乳が作られちゃうのよ」
 

そう笑う、助産師さん…。 
 

いや、それ…

先に言ってほしかったよ…
 
 

「じゃあ、マッサージしよっか」

助産師さんのその言葉に、私は少しホッとした。
 

マッサージ!
なんだか、優しそうな響き。
 

「よろしくお願いします…」

これで楽になれるとそう思った。
 
 

次の瞬間…
 

ぅっ、えぇーー!!
 
ぃいだだだだだだっ!!
 

押される。

揉まれる。

容赦なく!!
 
  

や、やめてぇぇぇえーーー!!
 

痛すぎて声も出ないっ

…いや、痛いなんてもんじゃない!
 
 

これは拷問だっ!!
 

「よしっ、もう少し!頑張れっ」

…む、無理ぃぃ!いだいぃぃっ!
 

私は持ってたタオルに噛み付いた。

勝手に涙が込み上げる。
 

もうひたすら、耐えるしかないっ!
 
 

「はい、お疲れさまー」

終わった時、私は屍だった。
 

「また明日もやるからねー」
  
 

…えぇ…

…嘘だっ

退院まであと2日ある…。
 
 
 

それから、まさかの1日3回。

地獄の乳マッサージが、待っていた…。
 
 

そして、やっと迎えた退院の日。
 

マッサージのおかげで、たしかに授乳は順調になった。
息子もしっかり飲んでくれるようになった。
 
 

感謝してる。
 

…本当に。
 
 

でも…

あのマッサージは、もう2度とごめんだっ!
 

あの痛みだけは、もう経験したくない。
 
 

産院を出る時、見送りに来てくれた助産師さんが、
「家でも自分でマッサージやってねー」と言った。
 
 
 

…あんなの、やれるかぁぁっ!!!
 
 

そう心の中で叫びながら、

私は笑顔で産院をあとにした。

30代 | 夫、息子2人、保護猫と暮らす。 友人と10年カフェを経営、妊娠を機に現場を離れる。在宅での仕事に魅力を感じ、ライターの道へ。映画鑑賞、読書、レザークラフト、ガラス彫刻など…引きこもり系趣味をもった、インドア主婦。

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