—あー。なんであんなこと言うてしまったんやろ…
数分前の自分に「言うたらあかん!」と釘を刺してやりたい…
私は、キラキラと目を輝かせている息子を見ながら、深く溜息をついた。
まさか、こんな面倒くさいことになるなんて…
「もみじって食べれるんやで!」
それは、きれいに秋色に染まった街路樹の中継を見ながら、深く考えずに放った一言だった。
「えっ?そうなん!?食べれるん!?」
そう言う息子に私は「そうやで!もみじは天ぷらにして食べたりするんやで!」と答える。
大阪出身の私は、息子にもみじ天ぷらについて教えた。
もみじ天ぷらとは、大阪の箕面市に伝わる銘菓。
きつね色の食用もみじに、衣を付けて揚げたものだ。
ほんのりとした甘みがあり、あの美味しさは今でも記憶に残っている。
息子に説明をしていると…
—ん?
私は気付いてしまった。
息子の表情が、期待に満ちた表情にみるみる変わっていっていることに。
—なんか…嫌な予感…
そして、期待のまなざしを私に向けて、こう言い放った!
「たべたい!!つくってーー!!」
(ガーーーン。)
聞きたくない言葉を聞いてしまった。
もみじ天ぷらを作れだとーーー!?
その頃の息子は4歳。
まだまだイヤイヤ期真っ盛り。
やりたいと思ったことは絶対に譲らない時期であった。
諦めさせるなんてとてもとても…
残念ながら私には、もみじ天ぷらを作る選択肢しか残されていなかったのだ。
「あーーどうしよー。」
翌日、どんよりとしたオーラを漂わせながら、私は近所のスーパーへ重い足を運んだ。
食用もみじなんて、そこらへんに売っているわけがない。
それでも、藁にもすがる思いで、スーパーの食品棚とにらめっこ大会を始める。
思い当たるところを探すも、やはり見つからない。
—もみじなんか売ってないよな…
わずかな希望も消えそうになっていた。
そして、息子になんて言おうかと、言い訳を考え始める始末。
諦めて、出口へ向かおうとしたその時…
「!!!!!」
ふと、あるものが目に入ったのだ!
—これやーーー!!
夕食が並ぶ食卓。
私は息子に、自信満々にこう告げた。
「もみじって、緑色もあるんやで!」
息子の目の前にあるのは…
なんと、緑色の天ぷらだった。
「ほんまや!!みどりや!」
満面の笑みで、息子は天ぷらを頬張る。
「おいしーーー!!」
そんな息子の姿を、私は満足げに見つめながら、心の中で息子に種明かしをした。
—息子よ。
君が食べているのは、「もみじの形」にした「大葉」や!
そう。
私が見つけたのは、青々と凛々しく佇んでいた大葉たち。
もみじ型にカットした大葉の天ぷらたちは、息子の心もお腹も、無事満たしてくれた。
同時に、私の心も、達成感でいっぱいだった。
ありがとう!私を助けてくれた救世主!
でも君達のことは、息子にはまだ内緒(笑)