Facebookを見ただけだったのに

生活

 
 
ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ、ビーッ…
 
 
う、うるさい!
何?この音…
 
 
ノートパソコンから、
耳をふさぎたくなるような、
けたたましい警告音が部屋中に響いた。

画面には、
真っ赤な「警告」の文字。
電話番号も表示されている。
 
 
えっ?
私、何かした?
 
 
その日は、休日の午後だった。
一人でリビングに座り、 Facebookを見終えて、閉じるボタンを押した。

その瞬間──

突然の大音量。
警告画面。


体が固まった。

とにかく、この音を止めたい…
と思った。

スピーカーアイコンを探した。

……ない

警告画面が覆いかぶさっている。
マウスで動かそうとした。

が、 動かない…

ならば、
フリーズしたときの切り札を使おうと、
キーボードの、Ctrl+Alt+Deleteキーを押した。
  
 
……だめだ、動かない。
どうなってるの?
どうしたらいい?

 
 
夫は外出中。
頼れる人はいない。
 

 自分で何とかするしかないか…
 
 
警告画面には、
サポート窓口の電話番号が表示されている。

 
 
ここに電話するしかない…
 
 
私は鳴りやまない警告音の中、電話をかけた。

この時は、
このけたたましい音から解放されたい。
ただ、それだけだった。

この先に何が待っているかなんて、
想像すらしていなかった。
 
 
 
 
電話に出たのは、片言の日本語を話す若い男性。

「イマカラ ワタシ ユウトオリ シテクダサイ」

部屋の中では、
相変わらず、警告音が鳴り響いている。

 
 
よく聞こえない…

「もう一度、いいですか?」
 
 
ただでさえ聞き取りにくい声が、
大音量にかき消される。

たぶん、
「ウイルス感染の確認をするため、
遠隔操作ソフトを インストールする」
と言っているようだ。

 
 
早く解決したい…
 
 
私は彼の指示に従い、
そのソフトを私のパソコンにインストールした。
いつの間にか、
あの大音量は止んでいた。

次に電話口に出たのは、
「マイクロソフト社員」を名乗る男性。

画面には、「自分の写真だ」という顔が。
東南アジア系、40代半ばくらいか。

彼は言った。

「ウィルス感染で情報が流出し、
預金口座からお金が引き出されていないか、確認する必要があります。
今すぐ、預金口座をチェックしてください。」
 
 
そうか…。
お金がなくなっていないか、確認しないといけないのか…
 
 
私はまだ、何も気づいていなかった。
 
 
 
 
私は、自分名義の、ある預金口座にログインすることにした。

画面のパスワード入力欄に、文字と数字を打ち込んだ。
それらは黒い点に変わっていき、文字と数字は見えていない。
入力欄のすぐ横には、小さな「目のマーク」があった。

打ち込み終えた、その瞬間だった。

その目のマークが、
勝手に押されたのだ。

黒い点は一瞬で消えた。

私が打ち込んだ文字と数字が、
丸見えになった。

 
 
……え?
今、目のマーク押した…

遠隔操作で、勝手に見た…
マイクロソフトの社員だとしても、そんなことしていいわけないよね…

おかしい…
何かが、おかしい
 
 
私は眉間にしわをよせ、画面の様子をじっと見つめた。
 
その時、
また最初の若い男性に電話が変わった。
 
 
「これから24時間、パソコンに触らないでください。
修理代は30万円です。
今からお伝えするところへ、支払ってください」
 
 
30万?
パソコン代より高いじゃないかっっ!
 
 
私は、妙なところにひっかかった。
でもそれが、私を現実に引き戻した。
 
 
詐欺だ!!!
 
 
心臓がバクバク鳴り出した。
体と手が、微妙に震えている。

でも、不思議と頭は冷静だった。
私は、遠隔操作で開かれていた画面を、一つずつ閉じ始めたのだ。
 
 
「あっ…触らないで、触らないで」
 
 
電話の向こうで、慌てて制止する声がした。
私は構わず、 静かな怒りを込めて言った。
 
 
「もう、結構です!」
 
 
私は迷いなく、ノートパソコンの電源を切った。
 
 
 
 
……なんなの、今の!?
 
 
まだ心臓がバクバクしている。
興奮が冷めないまま、私は震える指でスマホを掴んだ。
そして、夢中で検索窓に打ち込んだ。

「パソコン 電話 詐欺」

「Microsoft 警告音 本物?」

するとそこに出てきたのは、

「サポート詐欺」

の文字。
 
 
やっぱり詐欺だったんだ…
そうだ、口座。口座はどうなっているんだろう…
 
  
私はそのまま急いで、自分の口座を確認する。

スマホの画面に表示される金額は…
 
 
変わってない!!動いてない!!
よかった…!!
 
 
私は大きく、安堵のため息をはいた。

その夜、帰ってきた夫に一連のことを話すと、


「電話してくれたら、よかったのに」と言った。


だって、知らなかったんだもん…、こんな手口があること。

何も知らなかった私は、
人をちょっと疑うことを、学んだ気がした。
 
……それにしても。
 
あのビービービーだけは…もう二度と、ごめんだ!!
 
 

事務職として働きながら、エッセイを学ぶ。 日常を振り返った時に気づく、 小さな違和感や感情の揺れをすくい取り、 言葉にすることを大切にしている。

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