「一度きりのことだしさ!」
夫がプランナーさんを味方につけて、説得してくる。
「やっぱりいいじゃん!書きなよ!」
ここぞとばかりに畳みかけてくる夫は、憎たらしいほど生き生きしてる。
「…じゃあ、お前が書けよ。」
と心では夫に言い返すが、優しいプランナーさんの手前、
「…いやぁ…」
と私は微笑みながら、渋り続けた。
私は今、結婚式の打合せ真っ最中だ。
私は打合せに向かう電車の中で、夫にはっきり言っていた。
「両親への手紙は絶対に書かないから」
「余計な事を言うなよ…」
と意味を込めて念を押したつもりだったのに…
…この裏切りものぉぉ
目の前には、ニコニコ…
…いや、ニヤニヤと満面の笑みを浮かべる夫の姿。
「同窓会みたいにワイワイやりたいんですよね?」
プランナーさんが優しく確認してくれる。
私は深く頷いた。
夫とは小中学校の同級生で、式に呼ぶのはみんな顔見知りの友人達。
同窓会みたいな雰囲気でワイワイやろうと決めていた。
だからこそ…
「手紙はいらないんです!」
涙のシーンとか、絶対にいらないし、何より恥ずかしい!!
心の中で叫びながらも、口では穏やかに微笑む私。
プランナーさんはにこやかに、
「そうですか、無理にとは言いません」
と言ってくれるけれど、夫はそんなの全く聞いていない。
「一度きりのことだし!いいじゃん!書こうよ!」
…こいつ、絶対面白がってんなぁ
…じゃあ、お前が書けよ。
と心で夫に言い返しながら
「…いやぁ…」
とプランナーさんの手前、笑顔でしぶり続けた私だった。
…それなのに
他の打ち合わせを進めようとしても、夫が手紙の話を蒸し返す。
「やっぱり手紙さぁ…」
また!?
プランナーさんが別の話題に移そうとしても、
「せっかくだし、手紙さー」
…しつこい!!
もぉぉ!!
このままじゃ、他が何も決まらない。
私は、深いため息と共に折れた…。
「…わかりました、手紙書きます…」
夫の顔が、パッと明るくなる。
私は夫の食い下がりに、根負けしたのだった。
そして迎えた、式前日の夜。
隣でスマホをいじっている夫の横で、私は思いつくままに手紙を書いた。
「30分で終わらせる…」心にそう決めて。
文字はきれいじゃないし、文章もまとまりはない。
でも、伝えたいことは書いた。
時折、夫が横目でチラリと覗く。
「変じゃない?一回聞いてて」
一応確認のつもりで、夫に読んで聞かせた。
すると。
「…っ」
夫の目から、ポロポロと涙がこぼれ落ちた。
…ぇ、なに…どこで泣いた!?
私は思わず手紙から顔を上げた。
「おいおい…涙のシーンないぞ?」
もともと夫は涙腺がゆるいことは知っていたけど…
いや、さすがに…
「…明日は大丈夫。前日に聞いといてよかった…」
涙を拭きながら、震えた声の夫に私は苦笑だった。
そして結婚式当日。
私達が思い描いていた、同窓会のような賑やかな式になった。
式の最後に組み込まれた手紙を読むシーン。
ちゃんと夫は冷静だった。
マイクのサポートも完璧!
手紙を読み終えて、会場は和やかな雰囲気に包まれた。
「みんな笑顔で楽しんでくれてよかったね」
そう夫と話しながら退場した。
そしてゲストの見送りをするため、プチギフトのクッキーが入ったカゴを持って振り向いた。
その瞬間――
「うっ…うぅ…」
夫が、顔をくしゃくしゃにして号泣していた。
ぇえー!?
今ですかーーっ!?
もう、そんな夫に笑うしかない。
「ちょっとー、明日は大丈夫って言ったじゃんよー」
「ごめん、なんか結婚式の雰囲気でやられた…」
夫はもう大泣きだ。
「退場したら、力が抜けちゃって…」
手紙を読んでる最中は、必死にこらえていたらしい。
その後――
退場してきた友人達に、夫は散々やじられ笑われることになった。
「お前なー!泣いてんのかよー」
「お前宛の手紙じゃねーだろ!」
泣き止まない夫に、友人達が大爆笑する。
プランナーさんも、笑いながら夫の背中をさすってくれた。
一番手紙をすすめた夫が、一番手紙で泣いた。
「明日は大丈夫」なんて言っといてさ。
…まぁ、そのおかげで、
笑いの絶えない私達らしい結婚式になった。
書きたくなかった手紙。
でも今は、あの時書いてよかったと思ってる。
ありがとう、泣き虫の夫。