赤いタータンの逆襲

人間関係

えっ、そんな言い方ってあり…

夫の言葉を聞き、私はそう思った。
心の中は、何とも言えない複雑な気持ちでいっぱいだった。

──ある意味、当たっていたのだけれど。

でも言い方ってもんがあるでしょっ。

と、イラッとした。
 
あー、もうっ!
いいと思って買ったものだったのに…


その日の夜、夫が前から行きたがっていたカレー屋へ向かうことになった。
待ち合わせは隣駅。
私は、何を着て行こうかと考え、
 
カレー屋だし、匂いがついても、すぐ洗えるものがいいな…

そう思い、
最近買った、赤いタータンチェック柄のネルシャツに、手を伸ばした。

温かみがあって、やわらかな肌ざわり。
カジュアルだけど、大人っぽさもある。

Lサイズで大き目だけど、お尻も隠れる。
カレーの匂いが付いても、ザブザブ洗える。

鏡で全身を確認して、準備を完了。

よし、隣駅のカレー屋に行くには、ちょうどいいシャツ!

隣駅で夫と落ち合い、日が落ちた狭い道を進む。
歩いて5分ほどで、カレー屋に着いた。

店内には数人の男性客。皆、一人で来ているようだ。
シャツにカレーの匂いが染み込みそうな、チョット油っこい雰囲気の店。

注文は、紙に書いてカウンターに持って行くスタイルで、少し珍しい。

夫は「美味しい!」と笑顔で食べる。
私はというと、少し塩味が先に立つように感じ、旨味はあまり感じられなかった。

う~ん、女性好みのカレーではないかな…。

「また来たい?」と夫。
「もう、いいかな…」と私は答えた。

店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。

帰りの電車の中で、夫が「その恰好、寒くないの?」と聞く。
確かに、11月の夜にシャツ1枚は寒い。

ふと私は、

「ねぇ、このシャツの値段、当ててみて」
と夫に言った。

夫は笑いながら、

「そんな言い方するくらいだから、高くはないんじゃない?」
と答えた。

ところが次の瞬間、夫がぽつりと言った。

「古臭くて、二十年前のものかと思った」

──えっ、いま、なんと??

私は耳を疑った。

私が、いいと思って買ったシャツなのにっ!!

でも、ある意味当たっていたので、

「何で、そんな言い方するのっ!!」と口にできなかった。

 
そう、これは、古着だ。

私のセンスを否定されたような気分。
ムスッとしている私を横目に、夫は続けた。

 「君が服を大事に着るのを知ってるから、昔の服を着てきたのかと思った」

その瞬間、怒りはふっと消えた。

──えっ、そうなの…?

言い方ひとつで、人の気持ちはこんなにも変わるのか…?

 
私は狐につままれたような気分で、電車を降りた。

風がひんやりと頬を撫でる。
人気の少ない、静かな道を夫と歩きながら考えた。

確かに、今このタイプのシャツを着ている人はほとんど見かけない。
私のセンスは、少し時代遅れなのかもしれない……

いいと思って買ったシャツだったけど、ときめきは消えた。

今は…ええ、正直、着る気になれません!!!
 

事務職として働きながら、エッセイを学ぶ。 日常を振り返った時に気づく、 小さな違和感や感情の揺れをすくい取り、 言葉にすることを大切にしている。

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