「ねえ、ママ!ママも座ろうよ。洗い物なんて、後でみんなでやればいいよ」
家族みんなで迎えた大晦日の団欒中。
せわしなく立ったり座ったりを繰り返す私に、長女が声をかけてくれた。
私以外のみんなは、「紅白歌合戦」を見ながらのんびり料理をつまんでいる。
「うん、そうだね……」
そう生返事を返したけれど、私はそのまま黙って食器を洗い続けた。
–––時計の針を2日前、12月29日に戻してみる。
独立した二人の娘が帰省して、我が家は一気に華やいだ。
「ママ〜黒豆、持って帰れる?」
「栗きんとんも、もちろん作るよね?」
久しぶりに会った娘たちの無邪気なリクエストに、私のサービス精神が暴走を始めた。
……もっともっと喜ばせたい!
「もちろん!多めに作るからね」
私は、ちょっとおかしいくらい張り切り始めた。
そこからはまるで「素敵なママ」キャンペーンだった。
混雑した年末のスーパーで山のような食材を買い込み、せっせと料理に励む。
大掃除も手を抜かない。
換気扇の油汚れをゴシゴシとこすり落とし、シンクを磨く。
娘たちの布団を干し、カーテンを洗う。
「あれもしてあげなきゃ」
「これも好きなはず。作らなきゃ!」
気づけば、私は1人で頑張り続け、自分をどんどん追い込んでいた。
–––そして迎えた大晦日の夜。
ピカピカに磨いた食卓にいくつもの手料理を並べ、ワインで乾杯。
この日をみんなで楽しみたい。
そう思って、張り切っていたはず。
なのに、私の心はずっとざわついていた。
「次は温かいものを出さなきゃ」
「今のうちに洗い物を……」
「みんなを楽しませなきゃ」という使命感にからめとられ、
私は全く、その場を楽しめていなかった。
私は黙々と1人で洗い物を続けた。
–––そして迎えた1月1日。
「なんか気持ち悪い……」
目覚めた瞬間、世界がぐらりと揺れた。
新年早々、まさかの二日酔いだ。
「1年の計は元旦にあり」という言葉が脳裏をかすめ自己嫌悪が押し寄せる。
体調が悪くても「1年に一回だし……」と初日の出のため、夫と共にマンションの屋上へ向かう。
しばらく待ったけれど、鉛色の雲に阻まれ、輝く太陽を見ることはできなかった。
太陽にも見放されたような気分だ。
すごすごと自宅へ戻る。
「ごめん。ママ二日酔いだ。お雑煮お願いできる?」
そう、娘たちに告げ、私は逃げるようにベッドへ戻った。
頭から布団をかぶる。
誰も私を責めていない。
でも、私が私を責めていて、同時に憐んでいた。
私、頑張ったのに……
それなのになんで、こうなっちゃったんだろう。
……あれ?
でも、昨日、私そんなにお酒飲んでない気がする……
じっと目を閉じていたら、気がついた。
年末から、ずっとリラックスできないまま、走り続けていたことに。
それが今朝の二日酔い原因だ。
……忙しすぎる時、楽しめない気分の時のお酒が翌日残ること、今までもあったなあ。
そのまま横になっていたら、夏に亡くなった母の顔が浮かんできた。
そういえば、年末年始、母もいつも、なんだかキリキリしていたっけ。
「手伝おうか?」と聞いても「いいから座ってて」と包丁を動かし続けていた母。
あれ?昨日の私と同じじゃん。
当時は「せっかくのお休みに、なんでイライラしてるの?」と冷めた目で見ていた。
けれど、今ならわかる。
母は不機嫌だったんじゃないのだ。
きっと母も昨日の私と同じで「素敵なママでいなくちゃ」という使命感の中、1人闘っていたのだ。
「ママ。1人で頑張りすぎる癖、受け継いじゃった」
心の中で母に語りかけると、ちょっと涙が出た。
–––夕方、私は家族に声をかけた。
「みんな、ありがとう。回復してきたから散歩行かない?」
海まで歩き、冷たい海風にキャーキャーいいながら、海岸のベンチにみんなで座った。
私は、すっかり軽くなった気持ちのまま、夫と娘たちに提案してみた。
「ねえ、来年の年末年始は、どこか温泉にでも行かない?
なんか、頑張りすぎて、疲れちゃった」
「賛成!」
「いいじゃん!ママ頑張りすぎだよ〜」と娘たちが笑う。
……なあんだ。
誰も私に、完璧なママなんて求めてないんだ。
もっと、家族に甘えて任せればよかった。
よし。
来年の今頃は、もっと適当でもっとご機嫌な私でいよう。
バイバイ、素敵なママ!
私は、清々しい気持ちで、家族と一緒に再び海岸を歩き始めた。