「よし、完璧だー!」
ポカポカと良いお天気の日の、昼下がり。
部屋に1人でいた私は、とても気分が良かった。
その日は仕事が休み。
2歳の長女は保育園に行っている。
私は、家で1人の時間を過ごしていた。
——1人でカフェに行こうか…?
——1人で映画でも見に行こうか…?
いろいろとやりたいことは思いついたが、私にはやらなければならないことがあった。
…部屋の片付けだ。
恐ろしいほど、部屋が散らかっているのだ。
普段は、仕事と娘の世話でいっぱいいっぱいになってしまい、片付けに手が回らない。
娘のおもちゃがたくさん転がっていて、ひどい散らかりようだ。
娘にお片付けは覚えさせたいのだが、まだうまくできない。
ふと気がついたら、
——え、泥棒入ったっけ
そう思えるほど、ごちゃごちゃの部屋になっていた。
——これは、遊びに出かけている場合じゃない!
気を奮い立たせて、貴重な1人時間は部屋の片付けに全振りすることにしたのだ。
まずは、あちこちに置いてある積み木を箱に入れ、
時々踏んで痛かった小さなブロックをかき集め、
なぜか一本足りない色鉛筆を探し出し、
ナゾに2枚ぐちゃぐちゃにされている折り紙を拾い、
転がっているぬいぐるみ達をお部屋に入れてあげ、
——だめだ、これだけやってもまだひどい部屋だ…
だんだんと心は折れてくる。
——ゆっくりコーヒーを飲んでテレビでも見たい…
途中、すぐに邪な考えが脳裏をよぎる。
——だめだめ、今日は何としてでも綺麗な部屋にするんだ!
自分で自分に喝を入れる。
そんなこんなを繰り返しながら、私は1人戦っていた。
そして…
「か、ん、ぺ、き!」
足の踏み場もないほど散らかっていたリビングは、すっかりキレイに片付いた。
——やればできるじゃないか、私!
——こんなにキレイにカーペットの模様が見えたのは、いつぶりだろう!
私はとても気分が良かった。
保育園のお迎えまで、まだ少し時間がある。
私は鼻歌を歌いながら、コーヒーを淹れていた。
——部屋が片付いているって、こんなに気持ちがいいんだな…
鳥のさえずりさえ、軽快に聞こえる。
——娘、びっくりするだろうなー
——「ママ、おうちキレイにしてくれてありがとう!大好き!」とか言うんだろうなー
コーヒーの香りに包まれながら、1人ニヤニヤしている私。
普段とは違う、優雅な時間がそこにはあった。
お迎えの時間になり、急ぎ足で保育園へ向かう。
いよいよキレイなお部屋とのご対面だ。
娘の反応が楽しみで、わくわくが隠せない私。
家に着いた。
——いざ、オープンtheドア…!
「……え?どうしたの、これ?」
娘はキョトンとしている。
——いいぞいいぞ、この後、「ママすごーい!」が来るぞ…!
ニヤニヤしながらその時を待っていると…
「ぷりんせすのおうち、どこやったの!?!?」
急に叫び出す、娘。
——ぷりんせすのおうち…?
いや、そんな物は持っていないけど…
「つみきとぶろっくで作ってた、ぷりんせすのおうちーー!!!」
娘はそう叫んで号泣しだした。
…私は記憶をたどってハッとした。
積み木とブロックは、確かに転がっていた。
いや正確には、転がっていたように見えた…
だが娘的には、積み木とブロックでお家を作ったつもりだったのだ。
まだ2歳、そんなに上手にお家を作れない。
ぐちゃぐちゃ、とそこに置いてあるだけのように見えていたのだが…
娘にとっては、お家を、しかもプリンセスのお家を作ったつもりだったのだ。
——うそーーん…
期待を見事に裏切る結果に、私はズッコケそうになった。
が、娘にとっては一大事。
頑張って作った物が壊されたのだ。
「ごめんね…今からまた一緒に作ろ!」
キレイに片付けた積み木とブロックを急いで引っ張り出し、箱をひっくり返した。
カーペットは、あっという間に積み木とブロックで埋め尽くされる。
娘は黙々と、なにやら並べていく。
上に高く積んでいくなら、まだ何かの作品だと私も気付いたかもしれない。
しかし、娘は横に横に広げて並べていくため、作品だと分かりにくかったのだ…。
私は娘の気が済むまで、お家作りに付き合った。
そして…
「ぷりんせすのおうち、できたー!さっきよりもおおきいのできたー!」
そう、さっきよりも散らかして…じゃない、さっきよりも広範囲に積み木とブロックを広げて、プリンセスのお家が完成した。
なぜか折り紙をぐちゃぐちゃにしたものも転がっている。
…トイレ、らしい。
色鉛筆も一本だけ出ている。
…えんとつ、らしい。
——そういえば、さっきあったわ…
私は、すっかりまた元通りになってしまったリビングを見ながら、もう笑うしかなかった。
娘も笑っている。
——コレでいいんだ。
部屋は片付いていなくても、娘が笑える空間がそこにあるなら、きっとコレでいいんだ。
何か大事な物を教えてもらった気がする。
お片付けは、ゆっくり覚えていこうね。
そうして今日も私は、散らかった部屋で娘と一緒に遊んでいる。