宇宙人から卒業した日

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「嫌いになったわけじゃない」
 
 
 
 
…え?
 
 
 
 
嫌いじゃないのに別れる?
 
 
 
 
まさかそんな理由で振られるなんて、思ってもみなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
彼は私とは正反対の人だった。
 
 
 
 
私はよく喋り、よく笑う。
 
 
 
 
彼は口数が少なく、感情をあまり表に出さない。
 
 
 
 
それでも一緒にいる時間は、不思議と心地よかった。
 
 
 
 
気づけば私は毎日話しかけていて、彼も少しずつ笑うようになっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
ある日の放課後。
 
 
 
 
彼から学校の渡り廊下に呼び出された。
 
 
 
 
 
「好きです。付き合ってください。」
 
 
 
 
 
普段はクールな彼なのに、耳まで真っ赤になっている。
 
 
 
 
かわいい(笑)
 
 
 
 
私はニヤニヤが止まらない。
 
 
 
 
「なんだよ」
 
  
 
そういう彼に 
 
  
 
「なんでもないよ」 
 
 
 
と笑って返す。
 
 
 
夕焼けに照らされた彼の笑顔は、まるで太陽のようだった。
 
 
 
 
 
付き合ってからは、毎日LINEのやりとりをした。
 
 
 
 
彼からの通知が来るたび、胸が小さく跳ねる。
 
 
 
 
昼休みには、渡り廊下で一緒にお昼ご飯を食べた。
 
 
 
 
私がお弁当を作って持って行くと、彼は口角をきゅっと上げ、嬉しそうに頬張る。
 
 
 
 
そんな彼が大好きだった。
 
 
 
 
この幸せはずっと続くと信じていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
それなのに…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その時間は、突然終わった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
付き合って一年半。
 
 
 
 
突然彼から一通のLINEが届いた。
 
 
 
 
「放課後、話がある」
 
 
 
 
公園のベンチで、彼は言った。
 
 
 
 
 
 
 
「別れてほしい」 
 
 
 
 
 
 
 
 
あまりに突然すぎて、目の前が真っ暗になった。
  
 
 
 
 
 
  
 
 
 
震える声で、彼に問いかける。
 
 
 
 
 
「どうして…?」
 
 
 
 
 
理由は、病気を抱えた後輩マネージャーの存在だった。
 
 
 
 
 
友人を亡くしたばかりだった彼は、
 
 
 
 
「今は、その子を支えたい」
 
 
 
 
そう思ったらしい。
 
 
 
 
 
そして最後に、あの言葉を続けた。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
「嫌いになったわけじゃないんだ。」
 
 
 
 
 
 
 
 
彼は少しだけ間を空けて、視線を落とした。
 
 
 
 
そして、ちいさく口を開く。
 
 
 
 
 
「たぶん、まだ好きだと思う。」
 
 
 
 
 
 
 
…好きなのに別れる?
 
 
 
 
 
嫌いじゃないなら、どうして離れるの?
 
 
 
 
 
聞きたいのに、声が出ない。
 
 
 
 
 
「ごめん。」
 
 
 
 
 
そう言うと、彼は足早に去ってしまった。
 
 
 
 
 
公園のベンチでひとり。  
 
 
 
 
街灯の白い光が足元を照らしていた。
 
   
 
 
風が吹くたび、制服のスカートが揺れる。
 
 
 
 
答えの出ない問いだけが、頭の中をぐるぐると回り続けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
失恋は想像以上だった。
 
 
 
お昼休み、お弁当の蓋を開けても箸が進まない。
 
 
 
大好きな卵焼きを口に入れても、味がしなかった。
 
 
 
「食べないの?」
 
 
 
友達に聞かれても、
 
 
 
「お腹空かなくて」
 
 
 
そう、笑うしかなかった。
 
 
 
 
気づけば一週間で四キロ痩せ、制服のスカートは少し緩くなっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
そんなある日、久しぶりに友達と写真を撮った。
 
 
 
写真に写る自分を見て、ゾッとする。
 
 
 
 
「これ…私?」
 
 
 
 
頬はげっそりとこけ、顎は尖り、目だけが不自然なくらい大きく見える。
 
 
 
 
…怖い。
 
  
 
 
まるで映画に出てくる宇宙人みたいだった。
 
 
 
 
私は思わずスマホから顔を離す。
 
 
 
 
 
 
いつからこんな顔になっていたんだろう…
 
 
 
 
振られた後、全てがどうでもよくなって、見た目のことなんて気にもとめていなかった。
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
でも…これじゃダメだ…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「別れて正解だった」なんて、思われたくない。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
その日から、私は変わった。
 
 
 
 
お弁当は完食した。
 
 
 
髪を整え、鏡の前で笑顔を練習し、YouTubeでメイクを学んだ。
 
 
 
 
 
 
 
すべては、”彼にまた振り向いてもらうため”
 
 
 
 
 
  
体重は少しずつ戻り、肌にもツヤが戻ってきた。
 
 
 
「最近かわいくなったね!」
 
 
 
そう言われる日も増えた。
 
 
 
昨日より今日。
 
 
今日より明日。 
 
 
自分が少しずつ、輝いていく。
 
 
 
気づいたら、鏡の自分を見ることが好きになっていた。
 
 
 
 
スマホを開けば、メイク動画にヘアセット動画。
 
 
 
 
いつの間にか私は、彼とのトーク画面を開くことはなくなっていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
数か月後。
 
 
 
久しぶりに彼からメールが届いた。
 
 
 
 
 
「話がしたい」
 
 
 
 
 
胸が大きく跳ねた。
 
 
 
 
 
(もしかして…?)
 
 
 
 
 
 
指定された公園へ向かうと、彼はベンチに座っていた。
 
 
 
 
しばらく沈黙が続いたあと、彼が口を開く。
 
 
 
 
「やっぱり、やり直せないかな」
 
 
 
    
 
 
 
 
 
……!!!
 
 
 
 
 
 
あれほど待ち続けた言葉だった。  
 
 
 
何度も想像した。
 
 
もし彼が戻ってきたら。
 
 
もし「やり直したい」と言ってくれたら。
 
 
 
 
きっと泣いて喜ぶと思っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
なのに…
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
不思議なくらい心が静かだった。
    
 
 
気づいたら、私はこう言っていた。
 
 
 
 
 
 
 
 
「…嫌いになったわけじゃないよ。」
   
 
 
 
 
 
 
 
 
数年前、私を深く傷つけた言葉だ。
 
 
 
 
彼の表情は止まった。
 
 
 
 
あの時は、嫌いになったと言われた方が、ずっと楽だった。
 
 
 
 
 
 
でも、今ならわかる。
 
 
 
  
 
「もう戻らない。」
 
 
 
 
 
彼は何も言えずに俯いた。
 
 
 
 
私はベンチからゆっくり立ち上がり、少しだけ息を吸う。
 
 
 
 
そして振り向いた。
  
 
 
 
 
「後悔したでしょ?」
 
 
 
 
 
私はいたずらにそう言うと、彼が顔を上げる前に続けた。
 
 
  
 
  
「一生後悔しな」
 
 
 
 
 
小さく笑って、彼に背を向けた。
 
 
 
 
 
振り返らなかった。
 
 
 
 
 
 
振り返る理由は、もうどこにもなかったから。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
帰りの電車。
 
 
 
窓ガラスに自分の顔が映った。
 
 
 
頬はちゃんと丸い。 
 
 
 
目だけがぎょろりと飛び出しているわけでもない。
 
 
 
思わず笑った。
 
 
 
あの日、写真の中にいた宇宙人は、  
 
 
 
もういなかった。
 
 

 

看護師×ライバー×ライター。 奨学金の返済に苦労し、さまざまなジャンルのお仕事に挑戦しました。 恋愛、お金、人間関係。今、悩んでいるあなたに、そっと寄り添えるエッセイをお届けできたらと思います。

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