私は、甘かった…
まわりから、天然と言われる母。
でも、天然なんて可愛いもんじゃない…
我が母は、ぶっ飛んでいる。
「ちょっとマクドナルド行ってくるから待ってて」
母はそう言って、軽快に車から降りていった。
私は兄と一緒に、マクドナルドの駐車場に車を停めて、母を待つことにした。
「……1人で買えんの?」
と言う兄に、
「大丈夫だよ。この前一緒に、ここのマクドナルド来たし」
私はそう答えて、気にもしていなかった。
……その時、母がとんでもないことをしでかしているとも、
…知らずに。
何も知らない私は、呑気にスマホを見ながら母を待っていた。
しばらくして、
「おまたせー」
母が、マクドナルドから車に戻ってきた。
手にはドリンクが1つ。
「それ、何?」
と私が聞くと、
「爽健美茶!」
と満足そうに答えた。
「……へぇ」
え、それだけっ!?
そう言いたい気持ちを、私は抑えた。
我が母にはヤボだ…。
きっと笑顔で、
「だって爽健美茶がほしかったから」
と返されて終わりだ。
…でも、きっと兄も思ってる…。
飲み物だけなら、目の前にある自販機でよかったじゃん…と。
それでも、兄も私も…何も言わない。
母に、私達の普通は通用しないのだ。
まあいいか…と、納得しかけた時…
ふと、兄が不思議そうに言った。
「…なぁ、今どっから出てきた?」
その言葉に私はハッとした。
…確かに…
店舗の方からじゃなかったかも…
恐る恐る…母を見ると、
「え?あっちよ」
そう言って、母が笑顔で指をさしたのは、
まさかの…
ドライブスルーだった…。
「えっ…ドライブスルー?」
まって、まって…
こわい、こわい…って
言葉を失う私に
「ん?なによ」
と母は爽健美茶を一口。
「なんでドライブスルー!?なんで中に行かなかったの!?」
「…中?中なんて知らないわよ。この前もあそこで買ったじゃない」
ぇえーっ、もう私はパニックだ。
確かに、この前ドライブスルーだったけど…
…けどさっ
ドライブスルーだよっ!?
ドライブで、スルーじゃん…
隣から兄のため息が聞こえる。
「だから言ったじゃん…」
と言いたそうな視線が向けられる。
そんなー!
ちょっとまって、私がおかしいの!?
「…ねぇ、お母さん…ドライブスルーに歩いて行ったの?」
自分で聞いてて怖い…怖すぎるっ
「…ねぇ、ドライブスルーって車で行くんだよ…」
どんなに必死に言ったって…母は笑って、
「あら、そうだったの?そう言えば、前にも後ろにも車がいたわねー」
ぅおーーぃ!!
その時点でおかしいって気づくでしょ、普通っ
『お車をお進めください』って言われた時も、
「私、車じゃないのになー」って思ったと笑う母。
…いやいやいやいやっ
「私、車じゃないのになー」じゃないでしょ!?
「あれ?ここ歩いて来ちゃダメなところなのかな?」って思わない!?
…もう、私は声にならなかった。
前後の車に挟まれて、徒歩でドライブスルーに並ぶ母を想像する…
前の車の人、バックミラーで歩いてる人が見えた時、どんな顔したんだろう…
後ろの車の人も、目の前を歩く母を見て絶句したに違いない。
とんだ恐怖体験だったに違いない…。
それに…店員さんは、よく対応してくれた…
「ヤバい人来た…っ」って絶対思っただろうに…
さすが、プロだよっ
…けど、中にお店があること母に言ってくれてよかったんだよ。
私は、こんなに申し訳なく思っているのに…
母には、何がおかしかったのか伝わらなかった…
「知らなかったんだもーん」
の一点張りだった…。
そして、後日。
母のことを話していた友人から、こんな話を聞かされた。
「この前、マックのドライブスルーで流れてたんだけどさ…」
…何?
『ご利用のお客様へのお願い。
ドライブスルーのご利用はお車でお願いいたします。
お車以外のお客様は、店内をご利用ください。』
…我が母よ
…わかってくれ
マクドナルドの歴史にあなたは、とんでもない爪痕を残したのだよ。