「誰か…タイムマシーンをくださーい!」
バレンタイン前日の、よく晴れた真昼間。
私は心の中でこう叫んでいた。
——そう。
私は、モーレツに後悔していたのだ。
“チョコを手作りしよう”
こう娘達に提案したことを…。
我が家の子どもは三姉妹。
——せっかく女の子ばっかりだし、みんなでチョコ作りしたら楽しいかな?
と提案した、チョコ作り。
「やるやる!生チョコ作りたい!」
と、10歳長女。
「生チョコね、オッケー」
私は快く了承した。
「私はキラキラのやつ!」
と、今度は6歳次女。
——キラキラ…?何だそりゃ…?
どうやら、チョコを溶かしてアラザンなどで飾り付けすることらしい。
——うーん、2種類作るのは大変なような…
「まぁ、チョコ溶かすだけだし、できるかな。」
私は不安を覚えつつも、了承した。
「クッキーー!」
すかさず、3歳三女が叫ぶ。
——ク、クッキー!?いやさすがに3種類も作るのはキツい…。
「クッキーがいいのーーー!」
三女大暴れ。
「…わかったわかった、クッキーも作ろう。」
私はしぶしぶ了承した。
こうして、大人1人子ども3人で、3種類のお菓子作りがスタート。
この時はまだ、
「何とかなるよね」
そう信じて疑わなかった。
…の、だが…
——数分後。
「ママー!牛乳こぼしたー!」
長女の叫び声に振り向くと、床一面に広がった牛乳。
——あぁ、早く拭かなきゃ冷蔵庫の下にまで広がっちゃう…
慌ててタオルを取りに行った、次の瞬間
「ママー!チョコの中にお湯入っちゃったー!」
聞こえてきたのは次女の泣き声。
——えぇ、それはもう修復できない…
長女の牛乳を急いで拭いて、チョコを溶かし直す。
「もう大丈夫大丈夫、チョコ直ったよ。」
なんとか泣いている次女をなだめる。
これで落ち着くかと思いきや…
「ママー!早くクッキー食べたいー!」
今度は、三女の理不尽な癇癪。
——いやいや、まだ小麦粉の袋を開けただけだよ!?
我が家は完全に、カオス状態だった。
誰だ、
「チョコを手作りしよ♪」
だなんて、そんな軽々しく提案をしたのは…
——あぁ、タイムマシーンに乗って、提案をする前の時間に戻りたい…!!
——誰か助けてー!!
…と思ったところで、タイマシーンは来てくれない。
仕方なく、この絶望的な状況も母1人で何とかしないと。
「ママ頑張れー!」
床とお湯入りのチョコの始末をしている母を、応援し始めた長女と次女。
その横で暴れている三女の相手をしながら、今度はクッキー作りの準備。
「まだ食べないよ!」
三女にそう言いながら、クッキー生地を作り、型をとってオーブンへ。
——キラキラチョコも早く型に入れないと固まっちゃう…
急いで、溶かしたチョコを型に入れ、キラキラのトッピング。
——あれ?生チョコもまだ途中だった!
牛乳を慎重にチョコの中に入れ、混ぜる。
母は脳みそと手をフル回転して、作業をしていた。
ふと三姉妹を見ると…
驚いたことに、歌を歌って踊り出している。
——嘘でしょ…
——作ってるの、母だけ…
……数時間後。
外は暗くなり、すっかり夕飯時。
テーブルには夜ご飯…ではなく、生チョコとキラキラチョコと完全母作のクッキーが、並んだ。
——つ、つ、疲れた…
「やったーーーーできたーーー♡」
「ラッピングどーしよー♡」
「おいしー♡」
燃え尽きた母とは対照的な、嬉しそうな三姉妹。
——大変だったけど…
——この笑顔のためなら、母はなんだって頑張れるわぁ…
…と、思ったのも束の間。
シンクに残された、大量の洗い物
散らかった、アラザンの床
チョコだらけの、汚れた服
恐ろしい光景が広がっていた。
——やっぱり、タイムマシーンが欲しい…
おまけに、これから夕飯作りも待っている。
——いやいや、来年は絶対に3種類も作らないからね!!