——なんか違う!何で!?
今、私の目の前にあるのは、一見普通のオクラ。
…が、何かが違う!
一体何が違うの!?
それは20年以上前の、春のこと。
県外の大学に通うため、私は一人暮らしを始めていた。
初めての土地、初めての友達、初めてだらけの毎日。
一人で暮らす不安を抱えながらも、多くの刺激を受けて楽しく過ごしていた。
…ただ一つの問題を除いて。
私にとっては大問題の、でも避けては通れないもの。
それは…
——料理。
私は料理が大の苦手だ。
恥ずかしながら、産まれてから18年、まともな料理をしたことはほとんどなかった。
包丁は、家庭科の授業で触ったのが最後の記憶だ。
コンロの使い方すら、よく知らないまま。
しかし…貧乏一人暮らし大学生。
自分が食べるものは自分で用意をしないといけない。
料理というハードルを、避けては通れないのである。
大学生になって、しばらくの間は何とかなった。
朝はヨーグルトとグラノーラ、お昼は学食、夜はお惣菜。
「料理しなくたって、何とかなる♪」
そう気楽に過ごしていたのだが…
ある朝、ふとこんな感情が湧いてきた。
——オクラ納豆かけご飯が食べたい…
母がよく朝食に出してくれていたやつだ。
無性にこれが食べたくなった。
——オクラと納豆をご飯にかけるだけだし、これならできる…!
私は、初めての料理をしようとしていた。
…これを料理と言えるのかどうかは、置いておいて。
まずはオクラを買って来て、調理スタート。
包丁やまな板、フライパンなどはしっかり母が買い揃えてくれていた。
——お母さん、今まで箱にしまったままでごめんね。
——今日からちゃんと使うよ!
母のことを思いながら、オクラを切る。
納豆にタレを入れて混ぜる。
ほかほかご飯に乗せる。
——出来上がりーーー!
いざ、いただきまーす!
「…ガリッ。」
……え?????
もう一口。
「…ガリッ。」
——え、え、え!?!?
ネバネバトロトロのはずのオクラから、想定外の音がする。
——なんか違う!!!
勢いよく口の中にかき込む予定が、あまりの衝撃にむせそうになる。
——何で!?!?
…そう。
…お気付きだろうか。
オクラを、茹でていないことに。
私は、オクラを茹でて食べるものだということを、知らなかったのだ。
この時点では、母のオクラ納豆ご飯と何が違ったのか、私はわかっていない。
慌てて母にメールをする。
「オクラと納豆のやつって、どうやって作ってた!?」
自分で書いておいて、何とも情けない文章だ。
母から返事が来た。
「まずオクラを、板ずりして、茹でて…」
——イ、イタズリ!?
——なにそれ!?
私はその単語の意味すら知らなかった。
——イタズリとやらをして、さらに茹でてもいたとは…!
「嘘でしょ…。オクラってこんな面倒だったの…」
いつも何も考えずに口にかき込んでいた、オクラ納豆ご飯。
急に、ものすごく手の届かない料理に思えてきた。
——こんな面倒なものを、母は朝食に出してくれていたのか…
改めて、母の偉大さを感じる。
と、共に、自分のあまりの料理スキルの無さに絶望した。
——このままじゃ、やばいな…
これから少なくとも4年間続く一人暮らし。
こんなレベルでは、餓死してしまう。
——ちゃんと料理しなきゃ…
そんなことを考えながら、目の前の茹でていないオクラ納豆ご飯を見る。
もう切ってしまっていたから、今から板ズリは難しい。
——とりあえず、茹でるだけ茹でてみるか…
納豆にすでに絡みついていたオクラを救出する。
——ちょっと待って、茹でるって、水から?沸騰させてから?
またしても高いハードルが、私のオクラ納豆ご飯の邪魔をする。
調べてみると、電子レンジでもいいとのこと。
茹でるのを諦めて、レンジでチンをした。
ようやく、柔らかいオクラの納豆ご飯はできあがった。
…当然、母の味とは全然違うが。
オクラ納豆ご飯さえも、調理できない自分。
とても情けなかった。
オクラとこんなに格闘した大学生は、私くらいじゃなかろうか。
——このままではいけない…
危機感を覚えた私は、それから猛勉強して、料理のスキルを身につけた。
…なんてことはなく、、、
苦手は苦手のまま、結局ほとんど料理をしないまま大学を卒業してしまった。
…だって、料理って大変なんだもん…
でも、野菜を食べるときは、生で食べられるかどうかの確認をする癖はついた。
あの日の、オクラとの格闘のおかげで。